4つの自動車クラスターに工業団地不足などの課題−インド自動車部品市場セミナー(1)−

(インド)

ムンバイ事務所・チェンナイ事務所

2012年12月06日

世界的に自動車の新規登録の伸び悩みが懸念される中、有望市場であるインドの自動車産業が注目されている。ジェトロが9月18〜28日、北九州、広島、大阪、名古屋、浜松、横浜、仙台の7ヵ所で順次開催した「インド自動車部品市場セミナー」を基に、インドの自動車産業について3回に分けて紹介する。1回目は4つの自動車クラスターの概況と工業団地不足などの課題について。

<投資視察ミッションなどに高い関心>
セミナーでは、ジェトロ駐在員と現地調査会社の関係者が、インドの自動車・自動車部品市場のマクロ状況、今後の見通し、自動車メーカーの調達方針、自動車産業が集積するインド北部、西部、南部それぞれの投資環境などについて説明した。

ジェトロがセミナー参加者を対象に行ったアンケートによると、「ニーズの高い部品分野、調達方針、さらに州ごとの投資環境や特徴が分かり、有意義だった」「進出のハードルは高いが、逆に展望が開ける可能性もあることが分かった」などの意見や感想が寄せられた。また、ジェトロが2013年1月と2月予定している複数の投資視察ミッションについても高い関心が寄せられた。

<自動車生産台数は日本を上回る予測>
インドの自動車(二輪・三輪車、商用車を除く。以下同じ)生産台数は、2011年度の年産約310万台〔インド自動車工業会(SIAM)、2011年〕から、2020年度には約970万台に増加すると予測されており〔インド自動車部品工業会(ACMA)、2010年〕、日本の約710万台(日本自動車工業会、2011年)を大きく上回る見込みだ。中間所得層の増加による国内需要の増加に加え、輸出向け生産の増加がその主な理由だ。完成車の輸出額は2011年度の約68億ドルから、2020年度には約290億ドルに達する見込みだ。

また、前述のACMA予測によると、自動車部品市場も2010年度の総生産額399億ドルから2020年度には約3倍の1,130億ドルになるとみられる。

<4大自動車クラスターにそれぞれ特徴>
インドには、デリー首都圏(グルガオンなど)、マハラシュトラ州(プネー)、グジャラート州、南部(チェンナイ、バンガロール)の4つの自動車クラスターが形成されている。それぞれの概要は以下のとおり。

(1)デリー首都圏
首都デリーを中心に自動車、IT、繊維、宝石、医薬品など、さまざまな産業が集積している。政治・行政・経済の中心地で、日本企業も数多く集積するが、工業団地不足などの課題を抱える。

インド自動車市場でトップシェアを占めるスズキのほか、ホンダが工場を持ち、2011年度の自動車の総生産台数は約120万台、年間生産能力は約187万台で、目下最大の自動車クラスターだ。

(2)マハラシュトラ州(プネー)
州内の製造業の中心地は、州都ムンバイから車で3時間程度のところにあるプネーだ。プネーは州内でムンバイに次ぐ経済都市で、高地にあるため気候が良く、ショッピングモールやレストランなどもあり、駐在員にとっては生活しやすい環境といえる。

地場系自動車メーカーのタタ・モーターズ、マヒンドラ&マヒンドラ、欧米系ではゼネラルモーターズ、フィアット、フォルクスワーゲン、ダイムラーなどが工場を持ち、2011年度の自動車の総生産台数は約70万台、年間生産能力は約135万台となっている。非日系企業が集積しており、日系部品サプライヤーにとっては新たな取引先を開拓する機会を得やすいなどのメリットがある。

インフラ面では、インドのコンテナ取り扱いシェアの約60%を占めるJNPT港(ムンバイ)を擁する。電力に関しては、依然として計画停電はあるが、最近は週1回(木曜日)から、地域によっては2週間に1回程度にまで改善している。一部工業団地の拡張計画はあるものの、デリー首都圏と同様に工業団地の不足が課題となっている。

(3)グジャラート州
工業生産シェアでは国内最大の製造業の集積地だ。外資誘致に特に積極的な州で、電力事情をはじめインフラ状況が良好であることなどから、今後急速に成長していくクラスターとして期待されている。

現時点で生産を行っている自動車メーカーはタタ、ゼネラルモーターズの2社のみで、2011年度の自動車の総生産台数は約12万台にとどまる。しかし、スズキ、フォードなどが既に進出を決定しており、今後数年のうちに、総生産台数約100万台のクラスターに成長すると見込まれている。

ジェトロは、グジャラート州政府と覚書(MOU)を結び、アーメダバード近郊に日本専用工業団地を開発する計画を支援している。また、インド西部(マハラシュトラ州、グジャラート州)では、日印両政府によるデリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)構想も進められており、今後多くの日系企業の進出が見込まれる。

なお、グジャラート州は外国人が少なく、禁酒の州でもあるため、駐在員の生活環境にはやや難があるが、今後、日系企業の進出の増加とともに生活インフラ面の改善が期待される。

(4)南部(チェンナイ、バンガロール)
タミル・ナドゥ州チェンナイは、日本・ASEAN向け輸出の主要港を擁し、温厚・真面目で日本人の気質に近いともいわれるタミル人が多い。労働力が豊富で、かつ労務面でも問題が比較的少ない。タミル・ナドゥ州に隣接するカルナタカ州は、州都バンガロールが情報通信技術(ICT)産業の代表的都市として知られている。高地にあるため気候が良く、駐在員が生活しやすい環境だ。

チェンナイ近郊には、ルノー・日産、現代、フォード、BMWなど、バンガロールにはトヨタが工場を構え、2011年度の自動車の総生産台数は約100万台だが、年間生産能力は少なくとも今後数年内に約160万台になると見込まれている。また、前述のチェンナイ港の優位性を生かし、現在では完成車輸出の一大拠点となっている。

日系企業が手掛ける工業団地開発が計画されるなど、今後も工業用地が供給されていくことが見込まれている半面、特にチェンナイでは計画停電だけで1日当たり10時間程度といわれており、電力不足が深刻化している(2012年9月5日記事参照)ほか、チェンナイ港、エンノール港週辺のアクセス道路の混雑など、インフラの改善が課題だ。この点、日印両政府は、チェンナイ〜バンガロール間の地域開発に向けた包括的な統合マスタープラン策定の準備を進めており、インフラ改善への取り組みが進行している。

インド進出に際しては、どの地域を選択するかが重要な問題の1つとなる。インドの各自動車クラスターはそれぞれ特色があるため、これらに留意しつつ、慎重に投資判断をする必要がある。

(大竹智之、長谷部貴史)

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