多国籍企業本部制度の恩典を拡大

(パナマ)

メキシコ発

2012年08月21日

多国籍企業本部制度改正法(2012年法律45号)が8月10日、官報公示された。多国籍企業本部制度(SEM)は多国籍企業の地域統括拠点やバックオフィス機能のパナマへの誘致を狙った制度で、税制、駐在員査証、雇用面での使い勝手の良い恩典が、今回の法改正により査証を中心に拡大される。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<既に数々の恩典>
多国籍企業本部制度(SEM)は2007年法律41号により創設された。SEMの適用を受けた企業の業務は国外業務とみなされ、法人所得税免税などの税制優遇があるほか、外国人社員の所得税と社会保険料が免除される。

また、最大5年間有効のSEM駐在員査証は貿易産業省(MICI)内に併設された移民局支所の所管で、査証手続きが円滑化される。SEMを利用しない場合、駐在員は有効期限が1年の一時滞在査証を取得し、国外業務のみに従事する企業幹部の労働許可証を取得しているが、SEM駐在員査証は5年間有効で、しかも労働許可証の取得は不要だ。さらに、労働法17条の「社員の90%をパナマ人またはパナマ人を配偶者とする外国人とする義務」が適用されないというメリットもある。

パナマ現地法人の勘定で売買を行う場合はこの制度を使うことはできないが、自社グループ企業製品の国内営業、周辺国での広域営業、トレーニングセンター、バックオフィスなどの業務であれば利用可能だ。

<手続きの迅速化などを明確化>
改正点は、a.貿易産業次官、外務次官、労働開発次官、公共治安省移民局長、経済財務省歳入局長により構成されるSEM委員会からSEM事務局への権限移譲による手続きの迅速化、b.税務関連の変更・明確化、c.SEM査証の恩典拡大、d.SEM駐在員の免税恩典の拡大の4点だ。

a.の権限委譲では、SEM企業に義務付けられている年次報告書の提出先(改正法1条)、SEMライセンス取り消し時の関係省庁への通達(同5条)、SEM駐在員の変更事項の届け出先(同13条)がSEM委員会からSEM事務局へ変更された。

b.の税務関連の変更・明確化は3点。

1点目は、SEM企業にはこれまでSEM登録番号が交付されていたが、今後は納税者番号(RUC)が交付される(同4条)。その後の関連行政手続きにその記載が義務付けられることにより、SEM企業に納税義務が発生する収入があるかどうかを税務当局が把握しやすくなる。

2点目は、SEM企業による経済特区内の自社グループ企業へのサービス提供に関する税務上の取り扱いの明確化。これまでSEM企業は、パナマ非居住者かつパナマ国内を利益の源泉としない事業を行う自社グループ企業へ提供するサービスについて所得税、消費税(ITBMS)を免除されていた。しかし、コロン・フリーゾーンやパナマ・パシフィコ経済特区がその対象になるかどうか不明瞭だったが、今回の改正によりこれらの経済特区にあるグループ企業へ提供するサービスは課税対象から外れることになった(同6条、7条)。

3点目は報告期限の明確化だ。SEM企業は、利益や他国で得た所得に対する税の支払い統合のため、任意に経済財務省と税務上の合意を締結することができるが、今回の法改正により、合意の事実を締結から30日以内にSEM事務局へ報告することが義務付けられた(同8条)。これまでも報告は義務付けられていたが、期限は定められていなかった。

c.のSEM査証は恩典が追加された。

1点目は扶養家族査証の発給対象の拡大。婚姻関係にない配偶者についても5年以上の特別かつ安定した関係を維持している場合は扶養家族とみなして査証を発給する。扶養家族ではない場合でも、SEM駐在員の両親および障害のある子女で、パナマに在住する場合は、当該SEM駐在員の責任の下で扶養家族査証を発給する。また、SEM駐在員の扶養家族査証の発給を受けた未成年者の家庭教師、警護員、育児係に対しても同様に査証を発給することができる(同9条)。

2点目は、SEM査証取得後の勤務期間が5年を超えたSEM駐在員向けの無期限滞在査証の取得権利付与(同11条)。これを取得すると、SEMに勤務し続ける限りは一切の更新手続きが不要になる。

3点目は、3ヵ月間有効な技術提供や訓練を行う外国人へのSEM一時滞在査証について、1回に限りその更新を最大3ヵ月間認めるというもの(同12条)。これまでは更新が認められていなかった。

d.はSEM駐在員に関税免除の恩典が与えられた。

まず、初回の駐在に限り引っ越し荷物にかかる関税が免除される。また、駐在期間2年につき1台、自家用自動車を免税輸入できる(同14条)。関税やその他の法定費用を支払う場合を除き、免税輸入してから3年間はこれらを売却、貸与することはできない。ただし、2012年8月現在、自動車の関税は無税のため自動車の免税措置は意味をなさない。なお、自動車輸入時に課されるITBMS、奢侈(しゃし)税は免税にならない。

<韓国、中国企業も活用>
パナマは南北アメリカのハブと呼ばれる交通の要衝で、広域営業、バックオフィス、トレーニングセンターの立地に適している。教育水準の低さによる労働力の質の問題があるが、SEMはこの弱点を補うために労働法上のパナマ人雇用義務を免除するなど、よく考えられた制度だといえる。

SEMを利用する企業は年々増えており、MICIによると、2012年6月29日現在で76社に達した(添付資料の表参照)。欧米企業だけでなく、韓国、中国企業の利用も増加している。

(西澤裕介)

(パナマ)

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