インドとのFTA第2修正議定書、発効は4月末から5月上旬に−輸出競争力強化とFTAの活用(1)−
バンコク発
2012年04月24日
ジェトロとタイ商務省外国貿易局は、3月末にバンコクで「輸出競争力強化に向けFTAをいかに活用するか」と題し、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)セミナーを開催した。タイでは最低賃金の大幅引き上げなどで生産コスト上昇が不可避な中、輸出競争力の維持・強化と市場拡大には、FTAの利用が不可欠だ。しかし、中小企業を中心に、「手続きが複雑」という印象を持たれがちなため、セミナーでは外国貿易局担当官がタイでのFTA概要、利用手続きなどを分かりやすく説明した。4回にわたってその内容を報告する。
<利用基準・規則が異なる11のFTA>
最初に、「タイの現在のFTAと在タイ日系企業にとってのFTAのメリット」と題し、外国貿易局特恵部サララット・パッタラヒランクン氏が、タイのFTAの概要を説明した。現在、タイは2国間、多国間を合わせ11のFTA/EPAを結んでいる(表1参照)。一番新しいのは2011年12月31日に発効したペルーとのFTA。現在、チリとの間でも交渉中だ。これら11のFTAはそれぞれ独立した協定で、利用基準や条件などは同じとは限らない。
例えば、FTAの特恵関税を享受するために必要な「原産地証明書(C/O)」取得条件である原産地規則は、11の協定でそれぞれ異なっている。近年は、「関税番号変更基準(4ケタ)」または「付加価値基準」のいずれかを満たせば、「タイ原産」としてC/Oが発給されるなど、比較的柔軟な選択方式を選択・導入する傾向がある。
タイの「付加価値基準」について、サララット氏は「タイは原産品価格やタイ国内での付加価値を積み上げる『直接計算法』ではなく、FOB価格から非原産品価格を差し引く『間接計算法』を採用している」と説明。例えば、ASEAN自由貿易地域(AFTA)ではASEAN原産品は原産地規則上、「付加価値40%以上」が求められるが、間接計算法では、FOB価格から非原産品分付加価値を差し引き、「FOB価格の60%未満かどうか」で判定する。
<C/Oの有効期間などもまちまち>
また、発給された原産地証明書(C/O)についても、第三国インボイス利用や連続するC/O(Back to Back C/O)利用の可否、C/Oの有効期間など運用上の証明手続きでも異なる。近年、「第三国インボイスは商流上、不可欠な取引」として、FTA協定に必ず盛り込まれる項目になっているが、中国とのACFTAなど初期の協定の場合、当時はその必要性が十分には理解されておらず、発効後、粘り強く協定改定交渉を行い、長年の交渉の末やっと改正された。
タイ・インドFTA(TIFTA)では、現時点で第三国インボイスは使えない(表2参照)。インラック首相が12年1月にインドを公式訪問した際、「タイ・インド自由貿易地域構築に向けた枠組み協定第2修正議定書」が締結された。ここでは、新たにHS8418.10の2ドアタイプの冷凍冷蔵庫も、アーリーハーベスト(早期関税引き下げ措置)対象品目として関税撤廃品目に加えられていることに加え、第三国インボイスについても利用できるよう修正が加えられた。この第2修正議定書は、4月1日の発効が明記されているが、ジェトロが商務省に運用状況を確認したところ、「(タイ側の)閣議承認の遅れにより、明記された発効日には発効しておらず、4月末か5月上旬になる見込み」との答えだ。TIFTAでの第三国インボイスの利用は、もうしばらく待つ必要がある。
<FTA利用でも中国が存在感>
サララット氏はセミナーで、11年のFTA利用輸出額(C/O発給ベース)を紹介した。最もFTA利用額が大きかったのはASEAN向けで151億8,155万ドル、これに中国(93億6,130万ドル)、日本(60億3,915万ドル)、オーストラリア(50億3,619万ドル)が続く。利用率でみると、オーストラリアが最も高く63.6%、これに韓国(AKFTA)が48.9%、中国(34.5%)が続く。日本向けは24.9%と非常に低いようにみえる。
しかし、既に最恵国待遇(MFN)税率が撤廃されていれば、あえて手続きコストをかけてまでFTAを使う必要はない。外国貿易局は、FTA特恵関税を享受できる品目の輸出額を分母にしたFTA利用率を算出した。これによると、オーストラリア向けで9割を超え、中国向けでも84.3%に達する(表3参照)。これにインド(74.6%)、日本(JTEPA:71.2%)が続き、日本向け利用率は決して低いわけではない。
またサララット氏は、今後、締結可能性があるFTAについても紹介した。ASEAN+3(日中韓)、ASEAN+6(日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インド)、ロシア、欧州自由貿易連合(EFTA)、EU、ベンガル湾多分野技術・経済協力イニシアチブ(BIMSTEC)、湾岸協力会議(GCC)、南米南部共同市場(メルコスール)などとの間でFTAを交渉・締結していく可能性があると述べた。
ただし、インラック政権は国内格差是正、赤(タクシン元首相派)と黄(反タクシン派)に二分された国内の融和、そして洪水対策など国内問題に注力せざるを得ないことに加えて、FTAの交渉を開始するだけでも、フィジビリティー・スタディー(F/S)実施、公聴会開催、内閣承認、国会承認、などの手続きを踏まねばならない。内閣承認だけでFTA交渉を次々と打ち出していったタクシン政権時代とは環境が大きく変わっており、交渉に入るだけでもハードルが高く、これらFTAを前に進めるにはかなりの時間と労力が必要になる。
(助川成也)
(タイ)
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