資源、教育水準、親日感情に魅力−ロシア中央アジアセミナー(2)−
欧州ロシアCIS課
2012年04月09日
中央アジアでのビジネスは、石油、天然ガス、レアメタルなど鉱物資源が豊富、若年人口が多く教育水準が高い、親日感情と日本ブランドに対する信頼の根強さなどの魅力がある一方、製造分野でのすそ野産業の欠如、商習慣の違い、法令上の制度と運用実態の乖離、物流基盤が未発達といった課題を抱える。
ジェトロ・タシケントの末廣徹事務所長は「中央アジアビジネス その魅力とリスク」と題して、以下のとおり説明した。
<高い経済成長>
中央アジア5ヵ国は、面積401万平方キロとEUと同等の大きさで、2010年の人口は6,330万人でフランス(6,296万人)、英国(6,222万人)とほぼ同じだ。域内総生産(GRP)は2,173億ドルで、香港(2,244億ドル)、シンガポール(2,227億ドル)、エジプト(2,185億ドル)と並ぶ。他方、経済成長のスピードをみると、中央アジア5ヵ国の2000年のGRP総額は393億ドルにすぎなかったが、10年には5.5倍に拡大した。
中央アジア各国の割合を面積、人口、経済規模でみると、面積ではカザフスタンが3分の2を占める。他方、人口はウズベキスタンが2,825万人と4割を占める。ウズベキスタンは人口増が著しく、12年1月に2,956万人に達した。2年間で約150万人増加した。経済規模をみると、資源国と非資源国に大きく分かれる。IMFによると、10年の中央アジア5ヵ国のGRPは2,172億9,200万ドルで、その3分の2をカザフスタン、5分の1をウズベキスタン、10分の1をトルクメニスタンが占める。1人当たりGDPは、カザフスタンが11年に1万951ドル(推計値)とロシアに迫っている。
<カザフスタンは投資環境改善に注力>
各国別にみると、中央アジアの外国投資受入額のほとんどを占めるのはカザフスタンだ。豊富な資源をめがけて、外国企業が投資を行っているためだ。日本企業は約30社が進出しており、大半はウラン、レアメタル、レアアース、原子力関係、ガス由来の肥料など資源関係だ。他方、自動車、家電、機械の販売、物流面での投資もあり、最近では日本の流通企業がカザフスタンへの進出を発表した。
カザフスタン政府は産業イノベーション開発促進プログラムを策定し、資源エネルギーに依存した経済構造からの脱却に向け、製造業誘致に力を入れている。政府は競争こそが発展の原点と考えており、国際競争に打ち勝てる製品の生産を目指している。これは日本人に近い発想だが、すそ野産業が欠如しているため、日本のビジネスパーソンの多くは製造業の投資は少し先だとみている。政府は投資誘致に向け近年、投資環境を改善させており、米ヘリテージ財団による経済自由度調査(12年)では、179ヵ国・地域中で65位、世界銀行によるビジネス難易度(12年)では183ヵ国・地域の中で47位だった。
ウズベキスタンは若年人口が多く、日本語学習者が多いことが魅力だ。日本企業では商社、物流、通信、自動車、建機販売など17社が進出している。08年12月に中部のナボイ地区に経済特区と空港を兼ね備えたロジスティクスセンターが開設された。欧州とアジアの等距離にある地の利を生かし、大韓航空が就航している。また、カリモフ大統領が古い機械を使用した場合、0.25%を課税するという大統領令を発令したため、設備更新需要が生まれている。日本語人材が豊富な点に注目すれば、データ入力事業のアウトソーシングにチャンスがあろう。中国で人件費が上昇してきているためだ。
キルギスでは言論の自由が保障されているほか、議会の権限が大統領に比べ強化されているなど、民主主義が定着している。このため、ビジネスに対する政府の介入が少ない。タジキスタンの主要産業は農業だが、山岳地帯が多く、また、電力供給の安定性に問題を抱える。国際機関からの借り入れに対する依存が強く、道路やビルなどの建設が盛んに行われている。トルクメニスタンは入国が難しく、情報が取りにくい。
<教育水準が高く親日的>
中央アジアビジネスの魅力は、以下の4点だ。
(1)石油、天然ガス、レアメタルなどの資源が豊富。昨今、中国がレアメタルに輸出規制をかけている関係で、中国に進出した日系企業が中央アジアに関心を持つようになってきている。
(2)ユーラシア大陸の中央に位置し、欧州、中東・アジアの「結節点」で、中国、ロシア、インドといった大国に囲まれている。インドとの間にはアフガニスタンがあるが、情勢が安定すれば、南西アジアへの供給拠点となろう。
(3)教育水準の高さ。中央アジアを訪問した日本人の多くが「東南アジアよりも技術系教育水準が高い」と指摘する。企業が従業員の働く意欲をかき立てれば、良質な労働力となり得る。
(4)日本ブランドに対する信頼と親日感情の高さ。値段が安いので中国製品を購入したが、機械の稼働率が低く、修理にも時間がかかっているため、壊れにくい日本の製品を買いたいという引き合いがよく寄せられる。
これに対し、中央アジアビジネスの課題としては、a.旧ソ連時代の構成国間の分業体制が残っており、製造業に対する部材供給を行うすそ野産業が未発達、b.リスクシェア、ウィン・ウィンの発想が少なく、日本人が考えるジョイントベンチャーが理解してもらえない、c.規定は存在するものの、運用面が実態と異なるケースがある、d.コンプライアンス順守の感覚が薄い、e.ロジスティクス、日本企業の現地ネットワークが未構築、の5点が挙げられる。
このうち、ロジスティクスについて、中国の連雲港からカザフスタンに抜けるチャイナランドブリッジは、中国、カザフスタン間の国境の阿拉山口〜ドスティックの貨物積み替えポイントに1万コンテナ程度滞留しており、連雲港を出てアルマトイに到着するまでに2〜3ヵ月かかる事例もある。このため、貨物の滞留費用がかさみ、採算性のあるプロジェクトでも赤字になった企業もある。
また、現地ネットワークについて、日本企業が中東の代理店にアフターサービスを委託しているケースがあるが、製品の保証期間内であれば、代理店が積極的に対応しようというインセンティブがわかないため、修理に時間がかかるという例がみられる。
<主要国の投資には批判の声も>
中央アジアに対して中国、韓国、トルコなど主要国はどのような取り組みをしているか。中国はトップ外交と上海協力機構の枠組みを通じて、積極的に中央アジア各国に対する借款を実施している。これに伴い、中国は自国の資機材と労働力を供給している。しかし、すべて自前で行おうとするため、現地の企業・住民から不満が出ている。
韓国企業は大統領による官民ミッションの取り組みに力を入れている。トップダウン決定による進出が多く、事業の採算が取れているかには疑問もある。トップ判断によるビジネスのため、事業を実施せざるを得ないが、軌道に乗らないと左遷される恐れもあり、進出した以上、「背水の陣」でビジネスに取り組むことが多いという。また、旧ソ連諸国の安価な電力料金を背景とした多結晶シリコンやアルミ精製など、電力消費型産業の展開にも積極的だ。しかし、韓国国内よりも緩い環境基準で作った機器を持ち込むことが多いため、有害物質の垂れ流し、公害輸出、電力浪費といった批判を耳にする。
トルコはソ連崩壊時に民族の同胞意識、言語の近似性をもとに接近した。繊維産業では、安価な労働力や、米国のトルコ製品輸入割り当ての回避に向け進出している。しかし、トルコ企業に対する評判は高いとはいえない。例えば、繊維製品を生産には「より」「染め」「織り」といった工程を伴うが、出力を最大にするための数値設定がずさんな事例、トルコ製の機械で、外装は新しいが内部のエンジンが中古品だった事例なども耳にする。このため、トルコ製品に対して拒否反応を示す人もいる。
(齋藤寛)
(中央アジア)
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