大統領選、オバマ大統領が外交で成果挙げられるかに注目−ジェトロセミナー「2012年の米国政治経済をうらなう」(2)−

(米国)

北米課

2012年01月17日

セミナー報告の後編。ジェトロの梶田朗・国際経済研究課長は、大統領選では、オバマ政権が国内政策よりも総じて支持率が高い外交で得点を稼げるかが、1つの注目点になると指摘した。

梶田課長の講演概要は以下のとおり。

<12年前半の関心は共和党の大統領候補選び>
2012年11月の大統領選挙と議会選挙に向けて、12年前半の関心は、現職のオバマ大統領の対抗馬となる共和党候補者の選定に集中するだろう。11年12月時点では、ギングリッチ氏とロムニー氏が有力視されている。

ギングリッチ氏は1995〜99年まで下院議長を務めた。94年の議会選挙で、42年間民主党に握られていた下院多数党の地位を奪還し、評価を高めた。ただし、人柄も問われる大統領選では、2回の離婚がどう響くかが不安材料だ。保守的で、オバマ大統領による医療保険制度改革に反対、財政赤字削減を重視、小さな政府を志向、民間で米国を成長させるという信念の持ち主だ。外交面ではタカ派で、イラン、北朝鮮に強硬姿勢をとる。また、地球温暖化が人為的に起こされたという説を否定している。

ロムニー氏は2003〜07年の間マサチューセッツ州知事を務め、全米初の州民皆保険制度を実施した。その後、08年に大統領選挙に出馬したが、共和党内ではマケイン氏、ハッカビー氏に続く3位に終わった。

信仰する宗教が少数派のモルモン教という点がどう影響するか、やや不透明だ。ウォール街とは強いコネクションがあり、資金調達には問題がない。経済に強い点を売りにしている。中道穏健派だが、保守派の取り込みを意識するあまり、同姓婚や中絶問題などに関する発言がぶれており、共和党支持者はもとより無党派層にも同氏を懐疑的にみる向きがある。

11年の世論の動きを振り返ると、とりあえずロムニー氏を支持しつつも、発言のぶれなどから信頼が置けず、ほかの有力者を探す1年だったといえる。実際に、支持率首位をめぐる争いでは、バックマン氏、ペリー氏、ケイン氏らが台頭しては落ちていく中で、ロムニー氏は安定的に首位か2位を守っている。

12年1月3日のアイオワ州での党員集会(注1)で本格的な選挙が始まる。初戦で良い成績を収めれば資金集めにもプラスに働くなど、その後の戦いを有利に運べるため、各候補者は重視している。続くニューハンプシャー、サウスカロライナ、フロリダ各州での予備選挙も含めた予想では、ニューハンプシャー州を除いてギングリッチ氏がロムニー氏をリードしている。その後、多数の州で予備選挙が行われる3月のスーパーチューズデーで、代議員の4分の1が決まり、候補者の絞り込みにめどが付く。ただし、これまでも有力者が絶えず変遷してきたので、その時点で誰が優位に立っているかの予想は難しい。

<再選に向けオバマ大統領は厳しい状況>
3年目11月時点のオバマ大統領の支持率は、カーター元大統領(民主党)を除いて最低の42%だ。09年1月の政権発足当初の67%から始まり、ヘルスケア改革を経て支持と不支持が半々に、第2次景気対策で盛り返すも安定には至らなかった。その後も、テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者捕殺で支持率51%に若干上がるも、債務上限問題で効果的に対処できず下がり目に、という推移を経てきた。しかし、よく40%台で安定していると評価する向きもある。

不況が原因で再選を逃したフォード、カーター、ブッシュ(父)各大統領とも、再選を逃した選挙直前の失業率は7%台半ばだった。今回は、オバマ氏の経済政策を問う大統領選になるだろう。民主、共和両党にとって、国民の約4割を占める無党派層を取り込めるかどうかが勝負の分かれ目だ。魅力的な共和党対抗馬が出てくれば、無党派層がなびく可能性もあるが、今の顔ぶれではやや難しい。ただ、選挙戦が進んでいくと、対抗馬も大統領の顔になっていくものなので、現状で判断するのは時期尚早だ。08年の大統領選では、無党派層はほぼオバマ氏に流れたが、10年の連邦議会中間選挙では逆に共和党に流れた。

加えて、外交政策がどう影響するかが、ある意味カギとなろう。通常、外交政策は失敗すれば大きなマイナス要因になるが、成功してもプラスにはならない。しかし、オバマ政権の外交政策は、国内政策よりも総じて支持率が高い。ここに北朝鮮の金正日総書記死去という事件が起きた。今後の重要案件になるのは間違いないだろう。オバマ氏が外交でポイントを稼げるかどうかは1つの注目点だ。

<国内産業保護の流れあっても過激化はしない>
講演の後、講師の松下氏、梶田氏と聴衆の間で以下のような質疑応答があった。

問:米国が力点を置く自由貿易協定(FTA)にはどんなものがあるか。

梶田氏:最優先は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)だが、それ以外では、11月28日の米・EU首脳会議で、明確にFTAと表現していないが、将来そのようなものに検討の余地があるという話が出たようだ。大西洋間の経済連携枠組みの話は昔からあった。米州自由貿易圏(FTAA)の構想も、米国とブラジルがうまくいかずにいったん中断しているが、復活の可能性はある。

問:米国の対中貿易赤字額は相当な数字になっている。世論も先鋭化していると思うが、今後、中国からの輸入を抑えようという動きは盛り上がるか。

松下氏:中国に限定はしないが、政権・議会は国内産業を保護したいと考えているとみられる。08年の景気対策法に盛り込まれたバイアメリカン条項が象徴的だ。どちらかというと、「中国製」に抵抗感を抱いているというより、オバマ氏が「メード・イン・アメリカ」を強調している印象が強い。輸入制限といったドラスティックな方向には行かないとみている。

梶田氏:中国経済の台頭に漠然とした不安があるのは事実だ。対中貿易赤字に対して、労働組合には思うところがあるだろう。また、対内投資で米国の資源、企業を買いあさることに対しては、安全保障上の懸念が出てくる。ただ、消費者は、安価な製品で利益を得ている面もある。共和党は自由貿易を理解を示しており、過激な法案が出ても、票が割れて可決されない構造になっている。

問:共和党の茶会党(ティーパーティー)の存在が議会を機能不全に陥れたという見方があるが、12年の議会選挙で勢力は拡大するのか。

梶田氏:茶会党の勢いは落ち着いた感がある。代表的議員ではバックマン氏、ペイリン氏をバックアップしているが、今後ますます勢力を拡大するかは懐疑的だ。共和党幹部も、茶会党に振り回されると物事が進まないため、彼らの存在を良しとは考えていない。個人的には大きな波乱要因にはならないとみている。

問:12年前半が景気動向をみるカギとのこと。短期的には景気刺激策を打つのが厳しいといわれるが、今後どのように議論が進むか、それをめぐる議会勢力の対立点は何か。

松下氏:いま議会で議論されているのが、給与税の減税と失業給付の延長だ。いずれも11年末で失効予定で、延長されなければ、家計にとって実質的な増税となる。この状況下で失効させるのは景気に悪影響という点では、両党は合意しているとみられるが、財源をどう確保するかで対立している。民主党は富裕層への増税、共和党は歳出削減との主張を曲げない。この構図があらゆる場面で議論を停滞させている。とりあえず2ヵ月延長案(注2)が審議されているが、延長してもまた期限が到来し、同じ対立が生まれるだろう。どこかで妥協しないと有効な経済対策は打てない。

(注1)実際の結果は、首位が得票数3万15票(得票率25%)のロムニー氏、2位が3万7票(25%)のサントラム元上院議員、3位が2万6,219票(21%)のポール下院議員、4位が1万6,251票(13%)のギングリッチ氏、5位が1万2,604票(10%)のペリー・テキサス州知事、6位が6,073票(5%)のバックマン下院議員、7位が745票(1%)のハンツマン前駐中国大使だった。バックマン候補はその後、選挙戦からの撤退を表明した。
(注2)11年12月23日に、上下両院での法案可決、オバマ大統領による署名を経て成立している。

(梶田朗、松下美帆、磯部真一)

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