宮城県の中小企業復興を世界にアピール−今野印刷、ニューヨーク・ギフトショーで商談成立−
ニューヨーク発
2011年09月08日
今野印刷(仙台市若林区)は、東北地域有数の印刷会社だ。これまで大手企業の下請けが中心だったが、地元宮城のデザイン事務所と連携し、グリーティングカードなどの独自ブランドを立ち上げた。東日本大震災で本社工場が被災し、一時は予定していたニューヨーク・ギフトショーの出展取りやめも検討したという。しかし、宮城県の中小企業の復興を世界の人々に見てもらいたいと考え出展。ギフトショーでは、繊細なタッチで描かれたアニメ絵柄のグリーティングカードに注文が集まった。橋浦隆一社長に8月18日、話を聞いた。
<印刷機にズレが生じ操業を停止>
東日本大震災による津波が今野印刷の本社工場から約2キロの地点まで押し寄せ、共同で事業を運営するデザイナーなど多くの取引先や友人たちも被害を受けた。本社工場では地震による揺れで印刷機にズレが生じ、操業停止に追い込まれた。精密機器である印刷機の調整には約3週間かかり、復旧後これからだというとき、4月7日に発生した余震で再度印刷機にズレが生じて、また工場が止まった。
橋浦氏は「繁忙期の年度末に工場が休止したのは、大きなダメージだった。新規事業を地元の中小企業者と立ち上げた矢先でもあった。工場が止まり、余震が続く中、8月14〜18日のニューヨーク・ギフトショー(注)への出展を取りやめることも検討した。しかし、いつまでも立ち止まってはいられない。国内業務の立て直しで苦しい時期だったが、宮城県の中小企業の復興を世界の人々に見てもらいたいと考え、地元宮城のデザイン事務所のオーサムクリエイト(庄司みゆき代表)と連携して、出展することを決めた」と語る。
<独自ブランドを立ち上げ>
今野印刷(従業員50人)は、東北で多くの年賀状印刷数を誇る、地域有数の企業だ。東北地方のコンビニで販売される絵柄の入った年賀状の多くは、同社が印刷したものだ。大手企業から注文が入るのは、これまで積み重ねてきた創業103年の実績と、常に新しい印刷技術を追い求めていることにある。同社は「水なし印刷」と呼ばれる、有害な廃液を出さない、環境に対応した最新の印刷機を使用している。水を使用しないためインキがにじまず、仕上りが高精度で細かい表現ができる。その技術を生かし、ポスター、書籍、年賀状など、多くの印刷を手掛けてきた。
しかし、大手企業からの委託や請負が多く、今野印刷のブランドが表に出る商品はわずかだったという。下請けではなく、自社の印刷技術を生かして新しい事業を立ち上げたい。そう考えた同社は10年9月、オーサムクリエイトの庄司氏の協力を得て、グリーティングカードやグリィーティングカードを使ったインテリア商品を扱う独自ブランド「tegami」を立ち上げた。
<購入者の8割は女性>
全米グリーティングカード協会(GCA)によると、グリーティングカードの米国内の市場規模は75億ドルを超え、年間70億枚のカードが飛び交う。カードは、クリスマスやバレンタインデーなど、特定のイベントで取り交わされる季節カードが全体の半数、誕生日や記念日の報告など、日々取り交わされるエブリデーカードが半数を占める。日本では年賀状やクリスマスなどの季節カードが大半を占めるのに比べ、米国では日々取り交わされるカードが多いのが特徴だ。
グリーティングカードは、1枚50セントから10ドルまでの価格で販売され、2〜4ドルのものが一般的だという。購入者の8割は女性で、カードの選択に時間をかけ、一度に複数枚購入する。一方、男性は必要が生じた時に、1枚を購入する場合が多いという。
独自ブランド「tegami」が狙ったのは、一般的な価格より高めの、1枚5ドルのゾーン。じっくり時間をかけてカードを選ぶ、20〜30代の大人の女性をターゲットに定めた。
<ジャパニーズ・ポップの支持層を狙う>
ギフトショーに合わせて制作したグリーティングカードのコンセプトは「ジャパニーズ・ポップ・カルチャー」だ。かわいくて大人も楽しめるもの、アニメの非現実な世界を感じられるものを中心に出展した。米国のギフト店などでカードを見て歩き、11年2月にはジェトロが実施したニューヨーク・ギフトショー視察ミッションに参加するなど、事前にトレンドを調査した。米国のカードに描かれている絵柄には、細かなデザインのものが少なかった。得意とする細部加工の印刷技術と、米国で人気が高まっている日本のアニメを組み合わせ、ジャパニーズ・ポップの支持層を狙った。
橋浦氏は「ギフトショーで人気を集めたのは、繊細なタッチのアニメを描いたものだ。ジャパニーズ・ポップ・カルチャーに関心がある米国人などが集まるショップや、関連するディストリビューターからの商談が相次ぎ、その場で成立した。ニューヨークでの反応はまずまずだった」と語る。
<グリーティングカードをインテリアとして提案>
また、ギフトショーではグリーティングカードをデザイン性があるフレームに入れ、インテリアとして楽しんでもらうという提案も行った。フレームは1つ1つ手作りで、1つ1,000ドル以上の価格に設定した。値段を聞いて諦めるバイヤーもいたが、関心を示すバイヤーも多かったという。
展示した3種類のフレームをデザイン・製作したのは、オリジナル家具のデザイン・製作から、店舗設計など空間デザインまでを手掛けている地元宮城のインテリアデザイナー、尾形欣一氏だ。尾形氏が製作した椅子は、09年にパリで開催されたデザイン・インテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」のエントランス近くに設置される特別ブースで、最新のトレンドとして紹介されるなど、海外からの評価も高い。
橋浦氏は「宮城県の中小企業が連携し、宮城のデザイン力を世界に発信できたこと、そこで複数の商談が成立したことは、大きな前進だ」と語った。
(注)年2回開催される北米最大の日用品ギフト分野の専門見本市。ジェトロ・ジャパンブースでは、20社のデザイン性のある日本の雑貨・日用品、ギフト商品を展示した。
(打田覚志)
(米国)
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