サービス業務の集約拠点化進める日系企業−中・東欧の活用で効率化図る−
ワルシャワ発
2010年09月17日
日系企業による中・東欧への事業のシフトは製造拠点の再編に伴う事例がほとんどで、サービス業務の集約は欧米企業に比べて遅れていた。しかし、日系企業でも経営層への欧米人登用が進み、国外に本社を置く事業会社なども登場する中、ポーランドの地方都市を集約拠点として活用する事例も出始めている。
<専門基礎知識を持った若い人材が魅力>
「ポーランドの京都」とも評される古都・クラクフ。日立製作所傘下の日立データシステムズ(HDS、米国カリフォルニア州サンタクララ)は、ここでシェアード・サービス・センター(SSC)として、自社の欧州・中東アフリカ地域事業向けの経理・会計業務を行う「金融業務センター」を2007年10月から運営している。サービス業務集約をポーランドで進める先駆的な日系企業だ。
同社のポーランド法人は販売業務を中心にワルシャワで法人登記しており、クラクフ事業所は社内向けの経理・会計業務に特化した専門拠点(約80人雇用)となっている。調達から販売・出荷まで受発注伝票の管理、債権回収などが主な業務だ。
同センターのヤツェック・ポンチェク所長によると、多言語地域を対象に業務を行っているが、「経理・会計業務では、英語が共通のコミュニケーション基盤となっているため、英語に堪能な人材を確保することで、円滑に業務に対応できている」という。むしろ、「国際財務報告基準(IFRS)やソフトウエア・プログラミングの基礎知識を持った優秀な若い人材が多い点が文教都市クラクフの魅力だ」と指摘している。
<サービス業務集約立地として活力あるクラクフ>
クラクフにはビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)センターを含めた業務集約拠点が51ヵ所(10年6月時点)あると推定されている。フランスの情報サービス企業キャップジェミニが最も大きく、顧客企業の業務を受託するBPOセンターで約2,100人、情報処理センター(ITO)で約1,500人を雇用する。これに欧州・石油最大手のロイヤル・ダッチ・シェル(オランダ・英国)の約1,400人、IBM(米国)の1,200人などが続いている。
これらの企業は情報通信・ビジネスプロセスサービス事業者協会(ASPIRE)を設立し、クラクフを中心に「ヨコの連携」を深めている。HDSも会員企業で、同協会の発表(09年10月)によると、クラクフの業務集約拠点による雇用創出は約1万6,000人に達し、欧州を中心とする30言語に対応するという。最近では、インドのソフトウエア開発企業HCLテクノロジーズもクラクフに進出、約150人を採用している。さまざまなサービス業務がクラクフに集約されてくる中で、それらに対応したソフトウエアの開発も重要性を高めている。
サービス業務集約拠点の立地としては「首都以外の大都市」が好まれる傾向がある。その理由として、a.物価水準の高い首都を避けて事業コストを抑える、b.中央省庁など行政機関に多くの人材が就職している首都と異なり、専門性の高い人材を確保・育成しやすい、c.一定の人材供給力を持ち、英語などのビジネスツールの基礎を押さえた優秀な若年層の採用が可能、d.地域に応じた特殊言語(クラクフの場合、ドイツ語)への対応の可能性も期待できる、といったことが挙げられる。
欧州ではクラクフのほか、チェコのブルノなどが新たな業務集約立地として注目される。大市場周辺の後背立地に潜在する活力をサービス業務に生かすのが狙いだ。ポーランドでは、クラクフ以外ではウッジ、ブロツワフ、グダンスク、ポズナンなどもこの条件を備え、今後の日系企業のサービス業務集約拠点進出先として注目される。
<東欧へのビジネス拡大に対応>
ワルシャワ、クラクフに続く人口第3の都市ウッジにも、日系企業のサービス業務集約拠点がある。富士通サービス(ロンドン)は09年2月に「コールセンター」「ヘルプデスク」「アフターサービス」「システムメンテナンス」など複合的な機能を兼ね備えた事業拠点として、グローバル・デリバリー・センター(GDC)をウッジに設けた。
GDCは主にドイツと中・東欧圏の顧客を対象に、情報システム・ソフトウエアの技術サポートを行う。富士通サービスは、もともとポルトガルのリスボンに欧州市場向けのサービス集約拠点を持ち、約500人を雇用して約20言語のサービスに対応してきた。顧客企業の中・東欧への進出、東欧企業の顧客としての取り込みを進める中で、西欧とともに中・東欧に拠点を展開することが必要と判断した。
現在、約300人を雇用して、ドイツ語、英語、ポーランド語のほか、チェコ語、スロバキア語、ロシア語など9言語に対応するスタッフを常駐させている。これに対応してリスボン事業所は、スペイン語、フランス語、イタリア語などラテン系言語によるサービス業務の比重を高めている。
ウッジ事業所の主力顧客には、ドイツの保険最大手のアリアンツ・グループなども含まれており、ドイツ語での人材ニーズが強い。そのほかの顧客も、ロイター、石油のBP、通信のBTなど欧州企業がほとんどで、日系企業は含まれず、日本人駐在員も置いていないという。
また、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントも10年5月に北部のグディニアに国際金融センターを開設するなど、ポーランドを新たな軸に欧州でのサービス業務の再編を進める日系企業も徐々に増え始めている。
欧州には30近い言語があり、顧客に対するきめ細かなサポート体制を構築するためには、日系企業にとっても多言語社会を意識したネットワーク構築が不可欠になる。特にこれまで日本市場への依存が強く、欧州市場開拓が遅れていた消費財分野では、欧州市場進出に当たり、こうした顧客対応を意識した拠点展開、人材活用が必要となろう。
(前田篤穂)
(ポーランド)
ビジネス短信 4c91bb9946118





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