反政府デモで日系サービス業にも甚大な被害
バンコク発
2010年05月27日
反政府団体の反独裁民主戦線(UDD)がバンコク中心部で道路の一部を占拠したデモは、5月19日の治安部隊によるデモ隊の排除と、一部の過激派による市内商業施設への放火・略奪という予想以上の混乱と甚大な被害を残して終わった。店舗閉鎖などによる被害が拡大している中で、これまで明らかになった影響を日系企業の生の声で紹介する。
<被害地区に多くの日系企業>
座り込みデモで最も被害を受けたのは、ラチャプラソン地区にある企業だ。2ヵ月近く営業できていない店が多数あり、日数で単純に年間換算するだけでも15%程度の売り上げ損失が生じていることになる。この地区の日系企業では伊勢丹を筆頭に、伊勢丹が入っているセントラルワールドのテナントが大きな被害を受けた。多店舗展開している企業はその分緩和されるものの、店が1つだけ、またはこの地区に集中している企業は特に影響が大きいと思われる。
伊勢丹に入っている日系飲食店は、新宿さぼてん(とんかつ)、丼々亭(丼もの)、夢見屋(和風パスタとスイーツ)、ばくだん屋(広島つけめん)、吉野(京風お好み焼き)、田丸屋(焼き肉)などで、このほかの小売店は、パリミキ、紀伊国屋書店、山崎パンなど。セントラルワールドの日系飲食店は、モスバーガー、大戸屋、8番ラーメン、平禄寿司、ペッパーランチ、モーモーパラダイスなどで、このほかに無印良品、中村茶舗などがある。旅行代理店や花屋などを含めると、この地区に多くの日系サービス業が進出していたことがあらためて確認できる。
ラチャプラソン地区以外にも、BTS(高架鉄道)のサイアム駅周辺、サラデーン駅周辺などのデモ地域周辺商業ビルには、ダイソー、CoCo壱番屋、QBハウスなどをはじめ多くの日系サービス業が店を出している。ラチャプラソン地区ほどではないにせよ、一時的なビル閉鎖や周辺環境の悪化など、これらの地区もデモの影響を少なからず受けている。
<まだ立ち入れず、被害算定できない店も>
こうした地区を中心に、日系企業からジェトロに寄せられた具体的な被害状況は次のとおり。
○被害を受けた業種の筆頭ともいえる飲食業:「入居しているビルがデモの影響で閉鎖され、売り上げがなくなってしまった」、「治安部隊が展開している期間中、店の営業は続けたものの、店の前に銃を持った兵士が立っているような状況で客足が遠のいた」、「デモ地域からは外れたスクンビット地区にあるが、夜間外出を自主的に控えるようになり、売り上げは通常時の3割減になった(夜間外出禁止令発出前)」
○卸・小売業:「焼失したショッピングセンター内に店を持っていたが、まだ館内に立ち入れないため被害状況の算定ができない」(ファッション)、「最大の販売先だったラチャプラソン地区のショッピングセンターが50日間にわたって閉鎖された上、火災に遭った。当分の間、売り上げの大幅な減少を覚悟しなければならない」(服飾卸、食品卸)
○対個人・企業サービス業:「最大の媒体配布先だったラチャプラソン地区やシーロム地区の飲食店の営業ができず、広告主も減少したため、売り上げが約6割も減った」(雑誌)、「日本の大手各社がバンコク行きパッケージツアーを取りやめたため、8割程度の売り上げ減」(旅行業)、「入居していたビルが立入禁止区域に含まれたため、仮事務所を設置しなければならなくなった。また立入禁止区域内に居住していた職員も、ホテルなどに仮住まいをしなければならなくなった」(団体)、「予定されていた展示会が延期・中止になり、依頼されていた仕事もキャンセルになった」(広告・イベント)
占拠が終わっても、依然として閉鎖せざるを得ない店も多く、店を開けていても客足がすぐ戻ってくる状況でもないため、業種、地区を問わず影響が拡大している。
<補償方針不明確でいら立ち高まる>
建物への放火で生じた物的損害や消費者心理などへの悪影響は計り知れないが、一方で市民ボランティアによる市内清掃活動「Together We Can」が実施され、政府による補償受け付けが始まるなど、一連の騒乱の「後始末」が行われている。しかし、補償をめぐる政府の方針が必ずしも明確ではないこともあって、企業のいら立ちは一層高まっている。
伊勢丹は外見上、火災の被害からは免れたようにみえるが、一体となっているセントラルワールドの「ZEN」部分が放火による火災で崩落してしまった。この地区は日系社会にとって象徴的な場所であるだけに、復興を期待する声が強い。
(坂本英輔、鶴岡将司)
(タイ)
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