反政府デモの影響深まり、仮オフィスへ移転の動きも−中央銀行は強気の経済見通し−
バンコク発
2010年04月30日
反政府団体UDD(反独裁民主戦線)の活動によるビジネスへの影響が拡大してきた。出張延期や早退から仮オフィスへの引っ越しなど、事態の長期化を踏まえた対応が始まっている。強制排除の観測が絶えない中、事態解決のめどは立っていない。他方、タイ中央銀行は輸出の急回復を背景に、2010年GDP成長率見通しを上方修正した。
<バンコク北部で衝突、1人死亡>
旧国際空港のドンムアン空港北側で4月28日、デモ隊と治安部隊の衝突が発生、兵士1人が銃撃で死亡、19人が負傷した。治安部隊の誤射による死亡との説もあるが明らかではない。26日にはデモ隊がバンコク北郊外のパトゥムタニ県パホンヨーティン通りの上り車線を封鎖したが、治安当局の手で排除されていた。今回デモ隊はここを再封鎖するために向かっていたが、途中で治安部隊と衝突した。報道によると、デモ隊は手製のロケット弾、治安部隊はゴム弾などをそれぞれ用いており、騒然とした様子が伝わっている。
22日夜のシーロム爆発事件以来の死者がバンコク近郊で出たことで、デモの影響が面的に拡大した。近郊には日系製造業が多く操業する工業団地もあり、事態の拡大に企業は警戒感を強めている。
28日夕刻にもシーロム周辺で爆発が起き、スリウォン通りなどに警察隊を中心とする多数の治安部隊が集結したことで、一時急激に緊張感が高まった。強制排除はなかったものの、最近では日系企業を含めたタイ社会に「今日は何かあるのでは」「今日はこれまでで一番危ない」といったたぐいのうわさがまん延している。
<最大与党・民主党の解党裁判が開始へ>
与党民主党をとりまく情勢にも不透明要因が出てきた。アピシット連立政権の最大与党・民主党に違法献金と政党交付金不正使用の疑惑が浮上、選挙管理委員会が両疑惑を認定し、後者について直接憲法裁判所に提訴していたが、28日これが受理された。仮に憲法裁で疑惑が認定され解党という判決になれば、現政権の枠組みに影響を与えることは必至だ。
タクシン元首相率いる愛国党と当時野党だった民主党の解党裁判(06〜07年)の際には、憲法裁判所の受理から約10ヵ月で「愛国党は解党」、「民主党は存続」との判決が下された(2007年6月1日記事参照)。また、国民の力党の解党裁判(08年)の際には、PAD(反タクシン派)による空港占拠問題もあって、約1ヵ月半で「国民の力党は解党」というスピード判決が下された。解党された愛国党と国民の力党はともにタクシン元首相系の政党で、ともに党幹部が絡んだ選挙違反(票の買収)を問われた。今回の民主党の嫌疑は政党交付金の不正使用で、問われている内容が異なっている。
<仮オフィスに移転の動きも加速>
バンコク中心部の路上占拠から約4週間、シーロム爆発事件から1週間が経過する中、ビジネスへの影響も大きくなってきた。不動産会社ジョーンズラングラサールは「占拠されているラチャプラソン周辺地区にある企業の間では、他の地区に仮オフィスを探す需要が増加している」(「バンコク・ポスト」紙4月29日)という。
これまでも自社工場や関連会社への仮移転の動きはあったが、そういった代替施設を持たない企業でも、仮オフィスを求める動きが強まっているようだ。ジェトロの聞き取りに対し、自社で代替オフィスを持たない日系A社は「これまでは早めの退社などで対応してきたが、このまま事態が長引けば業務への影響が大きく、仮オフィスを探している」と答えた。
サービス業の中には、休業を余儀なくされる間、従業員の有給休日消化で対処しているところもあるが、占拠が長期にわたっているため、いつまでも有給休日を続けられず、今後の対応に苦慮しそうだ。
こうした中、バンコク日本人商工会議所の新会頭に就任した溝之上純一・タイ国三井物産社長は「多くの在タイ日系企業が、臨時休業、営業時間の短縮、社員の住居の一時移転、オフィスの一時移転などの対応を余儀なくされている。また企業業績への影響も懸念が広まりつつある。政治混乱が早期に収束することを願っている」とのコメントを発表、日系企業にも影響が及んでいる現状を訴えた。
<GDP予測、中銀は上方修正、シンクタンクは下方修正>
デモが長引き経済への影響が表面化する中、タイ中央銀行は28日に、10、11年の経済見通しを公表した(表参照)。10年のGDP成長率見通しはこれまでの3.3〜5.3%から上方修正し、4.3〜5.8%とした。パイブーン・キティシーカンワン総裁補は「この見通しは現在の政情不安の影響を加味している」と述べ、貿易相手国の経済回復が順調で輸出が成長のエンジンとなり、政情不安のマイナス面を相殺するとみている。
他方、地場銀行系シンクタンクのカシコンリサーチセンターは、政情不安によって、3.5〜6.0%としていたGDP成長率見通しを2.6〜4.5%に下方修正した。ピモンワン・マハチャリヤウォン理事長補は「政情不安は投資家の信頼感(の悪化)、急速な国内需要の低下、政府支出の遅延などの影響を及ぼす。結果として経済は輸出頼みだ」と指摘している(「バンコク・ポスト」紙4月30日)。
(鶴岡将司)
(タイ)
ビジネス短信 4bda545650528





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