韓国製品の品質向上で競争が激化−中韓企業躍進への対応−
リヤド発
2010年04月23日
日本製が高いシェアを獲得していた乗用車、タイヤなど消費財市場で、韓国製品の台頭が著しい。2009年には韓国からの中・小型乗用車の輸入額は日本を上回り、タイヤ輸入も急増している。携帯電話の輸入は前年比2.6倍となった。ウォン安の影響もあるが、低価格でトヨタのシェアを奪った現代自動車、急速に品質を向上させているハンコックタイヤやクムホタイヤ、若者や通信会社など新たな顧客を開拓したサムスン電子など、韓国メーカーは市場の特徴を的確にとらえている。
<中・小型車で日韓の順位が逆転>
これまで日本車のシェアが大きかった乗用車市場で、韓国車の存在感が高まっている。日韓の輸出統計によると、09年の韓国からサウジアラビアへの中・小型乗用車(排気量1000cc超3000cc以下)輸出は10億ドルを突破し、初めて日本を上回った(表参照)。
排気量1000cc超1500cc以下のガソリンエンジンを搭載した小型車は3億7,309万ドルと前年比83.7%の大幅増、排気量1500cc超3000cc以下のエンジンを搭載した中型車は10.9%増の6億4,833万ドルとなった。一方、日本からは、小型車が8.3%伸びたが、中型車は38.8%減、大型車は22.2%減と大きく落ち込んでいる。
日韓のサウジ向け自動車輸出が対照的になった理由としては、ドルに連動しているサウジリヤルに対し、円高・ウォン安が進行したことが大きい。ほかには、世界的な経済悪化を受けて国内経済の成長が落ち込み、銀行は貸し付けに、消費者は支出に慎重になったことも挙げられる。日本車は、同クラスの韓国車に比べて2〜3割程度割高だが、安定した品質、故障の少なさ、売却時の価格などが考慮された上で選ばれてきた。しかし、09年は個人・法人ともに資金繰りが厳しくなり、購入者が車種を選択する際の優先順位が品質から価格に変わったと考えられる。
韓国メーカーの中では現代自動車の販売が好調だ。Vertical Edgeが実施した市場調査によると、09年4〜11月の売上高は前年同期比で46%増加している。同社の次のターゲットはトヨタ「レクサス」シリーズが高いシェアを持つ排気量3000cc超の大型車と高級車だ。
トヨタの世界的な大規模リコール問題を受け、当地でも10年2月にトヨタの代理店が大型2車種のリコールを発表した。その直後に現代自動車代理店が新聞各紙にレクサスの競合車となる新型セダン「ソナタ」への買い替えを促す広告を連続掲載し、消費者の関心を引いた。富裕層が高級車を購入するに当たって、これまで韓国車という選択肢はほとんどなかったが、今後の動きが注目される。
<韓国製タイヤを指定する顧客も>
自動車アクセサリー販売店のイエローハット・リヤド店では、日系メーカーの商品とともに韓国で製造されたハンコックタイヤの製品が並ぶ。同店では商品陳列棚の多くを日系ブランド商品が占め、それが日本ブランドを好む顧客に対する売りにもなっていた。
しかし、最近は韓国車に乗る顧客から「既装着の韓国製タイヤを新品に交換したい」という要望が多く寄せられている。ハンコックやクムホブランドのタイヤは、自動車修理工場やガソリンスタンド併設の整備エリアでは日本製を上回る数が在庫されている。韓国からのタイヤ輸出(中古含む)は前年比29%増の1億5,000万ドルと好調だった。
今のところ、タイヤ市場全体ではブリヂストンがトップシェアを獲得している。当地の道路を走るには高い熱耐久性が求められるため、トラック物流業者などのヘビーユーザーは、同社やミシュランなどが当地用に開発した耐久性の高い商品を主に選択してきた。
しかし、韓国製品の品質向上に加え、韓国企業が販売ターゲットを利幅の高い法人に向けつつあることから、日系メーカー関係者は、市場を脅かされるとの危機感を募らせている。
<新規顧客の開拓で伸びるサムスン電子>
韓国からサウジへの携帯電話輸出額は09年に前年比2.6倍と急増し、8,900万ドルに達した。情報通信庁(CITC)によると、01年に12%にすぎなかった国内の携帯電話普及率は、05年にアラブ首長国連邦系通信会社のMobilyが参入して以降、急激に伸び、09年末時点で契約数は人口の1.75倍(4,480万件)となっている。
サムスン電子は、普及率が100%を超える中でも新規顧客層を開拓し販売を伸ばしている。その一例が、2枚のSIMカード(電話番号などの情報を保存するIDカード)を入れることができる機種(DUOS)だ。サウジ人男性は私用と仕事用に2つの携帯電話を持ち歩くことが多いが、これは煩わしくもある。DUOSは、顧客の「携帯電話を1つにまとめたい」という需要に応えてヒットした。
また同社は現地市場調査の結果、ほかの国ではビジネスパーソン向け商品として販売されている高価格のQWERTY配列キーボード付き機種を、フェースブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)を使いこなす若者向け商品として販売できると判断、休日のショッピングモールで最新機種を体験してもらう「チャット・スマーター(Ch@t Smarter)」キャンペーンを展開するなど若者向けの販売促進に力を入れている。
リヤド市内の家電販売店店頭では、ノキアの携帯電話がトップシェアを誇る。サムスン電子とアップル(iPhone)が目立つ一方で、日系ブランドのソニー・エリクソンの存在感は小さくなっている。
サムスン電子が他社と異なるのは、一般ユーザーに加えて、通信会社も顧客としていることだ。同社は通信機器メーカーでもあり、Mobilyとの提携を進めている。国内では、最大手通信会社STCの電話回線ブロードバンドネットワークの整備が遅れており、Mobilyによる無線ブロードバンドサービスが一般消費者の間で好評だ。サムスン電子はインフラパートナーとして、サービスの基幹となる無線通信技術WiMAXを提供している。
サムスン電子は、09年6月にMobilyとの提携強化の一環として、新規格WiMAX wave2向け基地局や関連装置を提供すると発表した。韓国からの携帯電話基地局や関連装置の輸出額は09年末までに3,100万ドルに達しており、機器の納入が順調に進んだことがうかがわれる。無線技術では、中国系の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)が価格の安さで携帯通信会社のSTC、Mobily、Zainからの受注を続けてきたが、サムスンは最新技術の導入で対抗する。
なお、基地局向け関連装置はNECのサウジ向け主要製品でもあるが、増加が続いていた日本からの輸出は、09年に減少に転じている。
<新たな販売戦略が必要な日本企業>
韓国の消費財メーカーは、09年を通して円高・ウォン安で推移した為替相場や、景気低迷に伴う消費者の低価格志向を追い風として、サウジ向け輸出を拡大させた。しかし、この勢いは一時的なものではなさそうだ。消費財市場で中国製商品が増加する中、韓国メーカーは低価格路線に活路を見いだしているわけではないからだ。
一般消費者向けの認知度が高まった現代自動車やハンコックタイヤは、トヨタ自動車の大型車や高級車、ブリヂストンの法人向け商品を次のターゲットとしている。消費者にとってサムスン電子の商品は、既にソニー・エリクソンの携帯電話やNECの通信装置など日本製と同等の品質をもつと認識されている。サムスン電子は、積極的な新規顧客層開拓や通信会社との連携強化によって大きく販売を伸ばしているため、対する日本企業も品質だけに頼らない販売戦略が必要となっている。
(福山豊和)
(サウジアラビア)
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