日本企業は品質とサービスで差別化を図る−中韓企業躍進への対応−
カイロ発
2010年04月01日
中国・韓国勢はともに低価格帯を強みに、価格に敏感な消費者が多い国内市場でプレゼンスを高めている。日本ブランドへの信用の高さを背景に、日本企業は品質とサービスを維持した商品展開に力を入れ、差別化を図っている。
<中国企業、テレビの現地生産を開始>
中国のハイセンス(海信)は2008年11月にテレビの現地生産を開始した。同社は06年末に現地事務所を開設し、完成品の輸入、販売を始めていたが、好調な売れ行きを背景に地場のシャムスとの提携を発表した。ハイセンスが生産ラインと部品を提供し、シャムスが1,500万ドルを投じて工場を建設、年10万台規模の生産を開始した。既に第2フェーズの建設に入っており、年20万台規模の生産と北アフリカ諸国はじめ周辺国への輸出を計画している。09年7月にはムバラク大統領も工場を視察した。
当地報道によると、国内に進出している中国企業は1,022社に上る。進出企業はこの5年間で急増し、製造業、通信、インフラ開発分野が多い。中国からエジプトへの投資額は03/04年度(03年7月〜04年6月)の73億ドルから08/09年度は210億ドルに拡大している。両国の貿易額も99年の6,100万ドルから09年には64億ドルに拡大した。しかし、エジプトの貿易赤字の構造は変わらず、07年の42億ドルから08年は54億ドルと赤字幅も拡大している(表参照)。
モヒッディーン投資相は「中国からの投資が拡大することで、エジプトから中国または第三国に輸出する機会も増えることを期待する」と現地紙に話している。中国企業の協力によるスエズ経済特区建設への期待も大きい。
<韓国は乗用車販売の上位3位までを独占>
カイロ市内に韓国のサムスン電子の広告が目立つようになってきた。ビジネスグループの中でも有数のマンスール・グループ〔ゼネラル・モーターズ(GM)の代理店、マクドナルドのチェーン運営などを手掛ける〕と組み、ブランド力確立のために積極的な広報活動を展開しているといわれている。また10年3月にはLGエレクトロニクスの副会長兼最高経営責任者(CEO)がエジプトを訪れ、ラシード貿易産業相に面会。今後10年間のエジプトでの生産活動と投資拡大計画を伝えるとともに、金融危機の影響で苦しい財政状況に直面していることも説明した。エジプト政府は同社の事業拡大に支援を表明した、と当地紙が報道している。
韓国は国内乗用車販売の上位3位までを独占している。09年の乗用車の販売シェアは、3社〔現代、シボレー(大宇が生産)、起亜〕合計で54.1%と過半数を占める。中国のSperanza(奇瑞汽車の現地名)が4位(シェア7.6%)、日本の日産が5位(同5.2%)と続く。シェア拡大の背景には、政府が発表した20年を経過したタクシーの買い替え政策に参入していることが挙げられる(2010年2月26日記事参照)。バス・トラック部門では日本勢が高いシェアを維持しており、09年でバス部門の64.8%、トラック部門の83.5%を占める(2010年3月1日記事参照)。
<日系企業、ボリュームゾーン参入の動きも>
エジプトでは、富裕層は人口約7,600万人のうち1割程度にすぎず、1日2ドル以下で生活する貧困層が約4割を占めるというほど所得格差が大きい。富裕層も含め、一般的にはブランドを重視し、新しいものにすぐには手を伸ばさない傾向があることや、依然として価格が購買の重要な要因であることに留意する必要がある。
テレビなどの家電製品、自動車に対する日本ブランドへの信頼は高く、日本ブランドの中でも「Made in Japan」が好まれる。「財政的に許せば日本製品を買いたい」という声がよく聞かれるが、現実的には低価格帯で市場に参入している韓国、中国製品が競合している。また、家電を中心に模倣品が後を絶たず、日本メーカーのブランドイメージを大きく損なうこともあり、メーカーにとって痛手になっている。
こうした中、日本企業の中には、スペックを現地のニーズに適した程度に下げつつも、品質やサービスを維持してボリュームゾーンに参入しているケースもある。また現地企業とパートナーを組み、アフターサービスに付加価値をつけて差別化を図る場合もある。
エネルギー分野では、お互いの強みを生かして提携している例もある。07年8月に三井物産が韓国建設企業GSとのコンソーシアムで、大型プラント案件(製油所向け軽質油精製設備)を受注した。
エジプトは投資省と投資・フリーゾーン庁(GAFI)が共催し、過去5年間ロンドンで開催していた投資誘致会議「Euromoney Egypt Investors Conference」を、10年に初めて香港で開催した。関係閣僚が出席し、会議後はシンガポールにも足を伸ばしている。エジプトがアジア諸国に対する投資誘致に力を入れている中、日本としても官民合同のアプローチや日本企業の強みを生かし、市場のニーズに合わせた事業展開をすることがカギになる。
(薮中愛子)
(エジプト)
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