信用収縮の影響で、景況感が全米で悪化−ベージュブック−
ニューヨーク発
2008年10月16日
10月15日発表の地区連銀報告(ベージュブック)では、12地区すべてで経済活動が弱まったことが示された。融資基準の厳格化や銀行の資金調達手段の変化など金融市場が悪化し、製造業、小売業、建設業をはじめ各業種に悪影響を及ぼしている。一方、価格上昇圧力は石油価格の下落などにより緩和した。
<各地で金融市場が悪化>
ベージュブックは、全米12の地区連銀(図参照、注)がそれぞれの地区の経済状況について、地元企業などから収集した情報を基に作成するリポートで、連邦公開市場委員会(FOMC)の約2週間前に公表される。今回は10月6日までの情報に基づき、シカゴ連銀が取りまとめた。
前回報告(9月3日)では、地区によっては経済の安定や改善の報告が見受けられたのに対し、今回は全地区で経済活動が弱まったことを示すものとなった。各地とも金融市場の悪化に触れた。
銀行貸し出しは、個人向け、事業向けともに各地区で「横ばい」または「減少」。クリーブランド、カンザスシティー、サンフランシスコは、延滞率上昇などローン資産の劣化を報告した。事業ローンと住宅ローンに当たっての融資審査の厳格化と担保の要求水準の引き上げ(リッチモンド)、資産査定の厳格化(クリーブランド、ニューヨーク)など、複数の地区で融資基準が厳しくなった。銀行倒産が相次いだことを受けて、自分の預金が保護されているか問い合わせたり、預金を引き出したりする預金者の動きを報告する地区もあった。
また、複数の地区が、銀行間の貸出市場での流動性が低下したことに言及した。そのため、銀行がほかの資金調達手段を求め、連邦準備制度理事会(FRB)の窓口貸し出しやブローカー預金(証券会社などを通して集める預金)を利用している(シカゴ)との報告もあった。
<銀行貸し出しの厳格化が各業種に影響>
小売り、自動車販売、観光などの個人消費は、ほぼすべての地区で減少した。小売業者は、設備資金の調達が難しくなったり、借入金利の上昇に直面したりしている(ボストン)。自動車販売は、多くの地区で、以前から低迷していた大型・高級乗用車に加え、小型乗用車も減少。複数の地区が、銀行からの自動車ローン借入枠の縮小を要因として挙げた。一方、カンザスシティー、セントルイス、シカゴは、販売代理店の販促と割引キャンペーンによる売り上げの伸びを報告した。
製造業の活動も大半の地区で弱まった。製造業者の間で金融環境に対する不安が高まっている様子を複数の地区が報告した。資金調達が厳しくなっていることから、将来予定していた投資を控える製造業者も出てきているようだ(フィラデルフィア)。また、建設関連業者の中には、銀行が融資を引き揚げたところもあるという(ボストン)。
製品内容でみると、建材・建設機器など住宅関連、鉄鋼など金属関連、自動車関連が引き続き不振だった。輸出はカンザスシティー、リッチモンド、フィラデルフィア、シカゴでは引き続き好調だったが、アトランタでは海外からの受注が減少に転じた。エネルギー関連産業と農業関連の重機製造業は、各地で好調を維持。ダラス、アトランタは、ハリケーン「アイク」と「グスタフ」で石油生産・精製業が影響を受け、南東地域や東海岸地域で石油・同関連製品の供給が減少し、ガソリンの供給不足をもたらしたと報告した。
商業用不動産市場と建設活動は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ダラスが急激な落ち込みを報告したのをはじめ、大半の地区で鈍化した。複数の地区から、金融環境の悪化や経済の先行き不安に伴う建設計画の中止や遅れが報告された。
住宅市場はボストン、ニューヨークなど8地区で悪化したが、クリーブランド、アトランタ、カンザスシティーでは低迷の中にも底入れの兆しがみられた。また、複数の地区が住宅価格の下落と、差し押さえの増加に伴う販売戸数の増加を報告したが、フィラデルフィア、アトランタなど4地区は住宅在庫が減少した。
サービス業もほとんどの地区で悪化した。複数の地区で、不動産と同関連の法律・登記サービスが低迷。ボストンでは、顧客の業種を問わずコンサルティング需要が減少した。輸送サービスはクリーブランドとセントルイスで減少、アトランタでは小売り・自動車・建設関連の輸送が減少した一方、エネルギー・農産品の輸送は増加した。ヘルスケア関連サービスは、好調な地区(ボストン、リッチモンド、シカゴ)、低迷した地区(セントルイス、サンフランシスコ)に分かれた。
<価格上昇圧力は一服>
価格上昇圧力は、石油価格の下落などに伴い、やや緩和した。輸送業者が燃油サーチャージを引き下げた例や(クリーブランド)、需要が低迷している製造業者が値下げした例(ダラス)が見られた。小売価格を見ると、割引の多用(フィラデルフィア、ダラス、サンフランシスコ)、値上げスピードの鈍化や値上げ幅の縮小(リッチモンド、カンザスシティー)などの報告があった。しかし、値上げを実施したか今後予定しているという製造業者や小売業者もおり(シカゴ、ダラス、カンザスシティー)、一概にインフレ懸念が収まったとはいえないようだ。
労働市場は全体的に弱まり、賃金上昇圧力は限定的だった。ただし、クリーブランド、ダラス、カンザスシティーのエネルギー産業などでは、引き続き熟練技術者の引き合いが強い。
プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、10月15日の「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版で、「ベージュが色あせて黒に(Beige fades to black)」と題し、今回のベージュブックの結果について「リーマン・ブラザーズ(の経営破綻)後の金融市場の混乱が起きる前に、既に実体経済の悪化が始まっていたことを示すものだ」と指摘した。
また、ベージュブックの発表に先立ち、FRBのバーナンキ議長が15日にニューヨークで講演し、米国経済の現状について「金融市場と住宅市場(の低迷)が、引き続き実体経済の弱さの主な要因だ。個人消費、企業の投資行動、労働市場も落ち込んでいる。貿易相手国の景気悪化に伴い、これまでの(米国経済の)強さの源だった輸出も伸び悩むだろう」と述べた。また、「金融市場がわれわれの計画どおりに安定しても、経済全体の回復には時間がかかるだろう」との見通しを示した。
(注)ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、カンザスシティー、ダラス、サンフランシスコの12地区。
(森棟彩奈子)
(米国)
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