日本産食材ピックアップ真鯛(マダイ)

魚の王様マダイ。赤くて縁起の良いハレの象徴

日本人は数多くの魚を食べますが、その中でもマダイは「魚の王様」とも呼ばれる程、知名度の高い魚です。市場価値の高いもので体長35~40センチほどですが、大きいものでは1メートルを超えます。魚の中でも長寿で、20~40年生きるとされています。

鯛は外見が鮮やかな赤色をしており、形が整っていることから、「めでたい」との語呂合わせもあり、古くから日本では縁起の良い魚として祝いの席に使われてきました。人生の様々なお祝い事の際に、尾頭付きの真鯛を食べる文化は今も続いています。子どもの生後100日を祝う「お食い初め」の席では、「祝い鯛」として、尾頭つきのマダイを塩焼きにして用意します。結婚披露宴では、鯛を塩で包んで焼いた「塩釜焼き」を新郎新婦が木づちでたたいて割る演出もあります。

天然ものの最盛期は春と秋。九州・西日本で生産が盛ん

マダイは亜熱帯域をのぞく日本列島全域で捕ることができます。数は少ないものの、奄美大島や沖縄県近海でも生息が確認されています。鯛の産卵期は、南の地域は冬から始まり、北上するにつれて春から初夏に迎えます。稚魚は海の浅いところで、動物性プランクトンや、エビ・カニの幼生などを食べて育ちます。成魚になると水深30~200メートルの岩礁域や砂泥底で、単独で生活します。あごと歯が強く、小魚や貝類のほか、エビやカニなど甲殻類の殻もかみ砕いて食べます。

国内の都道府県別漁獲量は、長崎、福岡、愛媛が上位3県(農林水産省、2018年調査)で、九州・西日本に集中しています。漁獲方法は網を仕掛けておく定置(ていち)網漁や刺し網漁が中心です。一年を通して市場に出回りますが、天然のマダイの旬は春と秋です。晩秋に水揚げされる「紅葉鯛(もみじだい)」は、春先に水揚げされる「桜鯛」に比べてうろこの赤みが強く、脂ののりが良いといわれています。

市場支える養殖業。環境改善で安全な品質確保

現在のマダイ市場は養殖を抜きには語れません。スーパーの鮮魚コーナーに並ぶマダイの刺し身の多くは養殖ものです。養殖の収穫量は、愛媛県が大半を占め、次いで熊本県、三重県と続きます。マダイの増養殖研究は1910年ごろに始まったといわれていますが、養殖が本格的に行われるようになったのは1965年以降です。養殖もののマダイは、海の浅いところで飼育されます。海にいかだを組み、その下を網で囲って養殖場をつくり、稚魚を放して飼育します。卵から稚魚を育てる場合は、陸の水槽で体長5~7センチまで育ててから海の養殖場に放します。養殖の魅力は、天然ものに比べ、管理が容易で安定的な生産が可能であることです。養殖技術が年々進化する中で、現在ではマダイは一年を通じ、安定して市場に出荷されるようになっています。

身と皮の間につまったうまみ。刺し身やムニエルに

マダイは日本料理に欠かせない食材の一つで、すしネタの定番でもあります。通常の刺し身は、魚の皮を除いて身だけを食べることが多いのですが、マダイは身と皮の間にうまみがあり、皮に熱湯をかけて加熱し、素早く氷水で冷やす「皮霜造り」も楽しむことができます。釣って間もないものは、身の引き締まった食感を楽しめますが、一晩寝かせたほうがうまみを引き出すことができます。うろこは硬めですが、包丁の刃先で引けば簡単に取ることができます。

マダイは味にクセがなく、いろんな味付けに合います。刺し身以外にも、昆布締めや兜煮(かぶとに)、アラの煮付け、鯛茶漬け、鯛めし、ムニエル、カルパッチョ、アクアパッツァ、中華蒸しなど、マダイを使った料理は和洋中にわたりたくさんあります。

低脂肪、高たんぱく。疲労回復にも効く健康食材

マダイは低脂肪、高たんぱくで、消化吸収が良い食材です。栄養成分としては、うまみ成分のグルタミン酸やイノシン酸などのアミノ酸が豊富に含まれ、おいしさを生み出す要素となっています。血中コレステロールを下げるタウリンも豊富です。青魚ほどではありませんが、動脈硬化を抑制する働きをするDHA(ドコサヘキサエン酸)や、血圧や血中脂質濃度を下げる働きがあるEPA(エイコサペンタエン酸)も含まれています。DHAやEPAは頭や骨に多いため、摂取するには「兜(かぶと)煮」や「あら煮」が適しています。

スポーツ選手など激しいトレーニングをする人にも好ましい食材です。エネルギーの代謝を良くするクレアチンや、疲労を回復させるアスパラギン酸、インスリンの分泌を促して筋肉を強化するロイシンなど、豊富な栄養素が含まれています。