グラーツ工科大学で水素燃料大型エンジン実証設備の運転を開始
(オーストリア)
ウィーン発
2026年09月11日
オーストリアのグラーツ工科大学(TU Graz)の大型エンジンコンピテンスセンター(LEC)は8月31日、水素燃料を活用した大型エンジン実証設備「LEC ZID(ゼロ・インパクト・デモンストレーター)」の運転を開始したと発表した。同設備は、再生可能エネルギー(再エネ)の出力変動を補完する次世代の調整電源として期待されており、大学キャンパスの電力・熱需要の一部を賄う。
世界的な電力需要の拡大に加え、人工知能(AI)やデータセンターの急速な発展を背景に、安定供給と脱炭素化を両立するエネルギーシステムへの需要が高まっている。大型エンジンは海運、鉄道、鉱業だけでなく、発電分野でも今後も重要な役割を担うとされる。その一方で、再エネ由来の燃料を活用しながら、高出力・高効率、さらには安定供給と柔軟な運用を実現することが大きな課題となっている。LECはこうした課題に対応するため、グラーツ工科大学キャンパス内に、大型エンジンのカーボンニュートラル運転の実現可能性を検証する研究・実証施設を整備した。
新設備「LEC ZID」は、水素燃料大型エンジンと排ガス後処理技術を組み合わせたシステムで、出力2~3メガワット(MW)を実現する。現行の天然ガスエンジンと同等の性能を維持しながら、温室効果ガス排出量を97%削減できるという。残りの排出量の大半は、水素の製造および輸送過程に生じる。現在、水素の一部は大学内のパイロットプラントで生産されており、残りは外部から調達しているが、将来的には全量を自家生産することを目指している。
LECの科学責任者であり、グラーツ工科大学の大型エンジン技術担当教授を務めるニコル・ウェルムート氏は、「ゼロ・インパクト・デモンストレーターによって、水素燃料大型エンジンが今日、既に実運用レベルで高い性能を発揮できることを示した。信頼性と低排出性能を実験室だけでなく、実際の運転条件下で実証することが重要だった」と説明した。
同設備はグラーツ工科大学のエネルギーインフラに完全に統合されており、発電した電力を地域の電力網へ供給するほか、排熱回収システムにより最大1.5MWの熱エネルギーを大学の熱供給網へ供給する。大学側は、このプロジェクトを2030年までに大学を気候中立にするという目標達成に向けた重要な取り組みと位置付けている。
グラーツ工科大学では1990年代から、大型エンジンに関する研究が進められてきた。2002年にはLECが設立され、水素、アンモニア、メタノールなどの再生可能燃料を活用したエネルギーおよび輸送システムの研究開発に取り組んでいる。
LEC ZIDは、オーストリア政府の産学連携研究支援制度「COMET」の枠組みの下で開発されたもので、エネルギー機器大手INNIOやボッシュなどが参画している。
(エッカート・デアシュミット)
(オーストリア)
ビジネス短信 87c7265f7d86ee98





閉じる