2027年税制改正案を国会に提出、法人の損金算入と繰越欠損金利用を制限
(メキシコ)
調査部米州課
2026年09月15日
メキシコ政府は9月8日、2027年の予算案とともに税制改正案を国会に提出した。新税導入や税率引き上げは行わないものの、所得税法(LISR)改正案の中に実質的な増税措置が盛り込まれている。特に議論を呼んでいるのが、法人の損金算入と繰越欠損金の利用制限だ。同改正は、国会の承認を得て2027年1月1日の施行を予定する。
対象は、税務上の益金(Ingresos acumulables)が年5,000万ペソ(約4億5,000万円、1ペソ=約9.0円)を超え、税務上の利益が生じる法人(改正案第78-A条)。ただし、農林水産業、マキラドーラ、保険会社、設立後5事業年度未満の法人などは原則として対象外(注1)。改正案(第78-B条)によると、損金総額が益金の96.67%以下の場合、当該損金の99.0%までしか当年度に損金算入できない。損金総額が益金の96.67%を超える場合は、益金の96.67%までしか損金として控除できない。控除できなかった損金はインフレ調整の上、最長20年間繰り越せる(注2)が、合併・会社分割による承継は認められない。
また、過年度の税務上の繰越欠損金(税務上の赤字)を当年度の利益と相殺できる額を、前述の損金制限適用後の税務上利益の50%までとする。未利用額の繰越期間は現行の10年から20年に延長される(第78-C条)。2027年の月次予定納税にも、特別な利益係数による暫定課税所得の計算と繰越欠損金の50%制限が適用される(注3)。他方、政府の産業政策に基づく即時償却の優遇部分については、損金制限の対象外となる(注4)。
歳入不足を企業に押し付ける徴税策との批判も
政府は、益金を申告した企業の約60%の実効所得税額がゼロとなっていることなどを制度導入の背景に挙げ、架空取引のインボイスを発行業者(ファクトゥレラ)から購入し、損金を人為的に膨らませて税負担を減らす行為への対策だとしている。国税庁(SAT)の分析で、損金が益金に近づくほど、ファクトゥレラの特徴を持つ企業との取引割合が高まる傾向が確認されたとしている(LISR改正案趣旨説明)。
一方、メキシコ経営者連盟(COPARMEX)は9月9日、利益率が低い企業では実態とは異なる課税利益が生じ、投資意欲や事業継続を損なう恐れがあると批判した(COPARMEXプレスリリース9月9日付
)。企業調整評議会(CCE)のホセ・メディナ・モラ会長も、卸売り、小売り、自動車販売など低利益率業種への影響を懸念し、大蔵公債省やSATとの作業部会で制度の見直しを協議するとしている(9月12日付主要各紙)。
税務専門家やシンクタンクなどの識者からは、政府がファクトゥレラ対策を理由に、真正な取引を行う低利益率企業にも一律の損金制限を課しているとの批判が出ている。インフォーマル部門(注5)の正規経済への取り込みを通じて納税者ベースを拡大する代わりに、税務当局が既に把握している法人へ負担を集中させる措置との見方だ。政府が社会福祉政策や債務利払いなどによって財政余地を狭める中、法人への課税強化で増収を図っているとの問題意識が背景にある。
(注1)LISR改正案第78-E条が定める除外対象には、運送業における優遇税制(貨物・旅客の陸上運送事業者が法人を通じて共同で事業を行い、同法人が原則として構成員ごとに所得税を計算・納付する制度)適用法人および農林水産業の優遇税制適用法人、破産宣告を受けた法人、連邦納税者登録(RFC)後5事業年度未満の法人(既存法人から事業用資産、商標、顧客などを引き継ぐ場合は除く)、保険会社、マキラドーラオペレーションを行う法人などが含まれる。マキラドーラオペレーションとは、外国居住者が所有する原材料・部品をメキシコに一時輸入し、保税加工した上で外国に輸出する受託加工オペレーションであり、課税所得は原則として同オペレーションに使用する総資産の6.9%と、操業に係る総原価・費用の6.5%のいずれか大きい額(「セーフハーバー」と呼ばれる)となる。
(注2)次年度以降に損金として繰り越せるのであって、繰越欠損金(Pérdida fiscal)になるわけではない。
(注3)2027年の月次予定納税では、直近の年次申告における損金総額が益金の96.67%以下の場合、通常の利益係数を1.0658倍し、96.67%を超える場合は2.6162倍する。過年度の税務上の繰越欠損金は、調整後の税務上の利益の50%までしか利用できない。
(注4)LISR改正案第78-E条Vは、プラン・メキシコなどメキシコの産業政策に基づく即時償却などの税制優遇について、優遇措置の有効期間中、かつ当該優遇部分に限って損金算入制限を適用しないと規定する。即時償却額以外の仕入れ原価、人件費、賃借料などの通常損金は、原則として損金算入上限の対象となる。
(注5)国立統計地理情報院(INEGI)の2025年12月17日付プレスリリース
によると、メキシコのインフォーマル経済(非合法な事業所に加え、合法な事業所でも就労形態が非合法な就労者によって生み出される経済)の比率は、2024年にGDPの25.4%に達し、現与党が率いる左派政権が発足する前の2018年(22.8%)と比べると2.6ポイント上昇している。就業人口に占めるインフォーマル就労率も2026年7月時点で56.2%に達しており、2018年7月時点(56.8%)と比較して大きな改善を見せていない。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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