リボ核酸干渉(RNAi)を利用した殺菌剤を世界初登録、米バイオ企業がメキシコ市で製造投資へ

(メキシコ、米国)

調査部米州課

2026年08月14日

メキシコ政府は8月12日、米国新興アグリバイオ企業グリーンライト・バイオサイエンス(GreenLight Biosciences)が開発したリボ核酸干渉(RNAi)技術(注1)を利用する農業用バイオ殺菌剤について、メキシコ当局が登録を認めたと発表した(経済省同日付会見録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。グリーンライトの発表などによれば、ブドウのうどんこ病の原因菌(Erysiphe necator)を標的とする殺菌剤だ。RNAi技術を用いた農薬は、米環境保護庁(EPA)が2023年12月、同社のコロラドハムシ向け殺虫剤Ledpronaを既に登録している。このため「RNAi農薬として世界初」ではないが、RNAiを利用した殺菌剤としては世界初の商業登録とみられる。

グリーンライトは、米マサチューセッツ州ボストンを拠点とする企業で、同社創業者兼CEO(最高経営責任者)のアンドレイ・サルール(Andrey Zarur)氏はベネズエラ生まれ、メキシコ国立自治大学(UNAM)で学び、その後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で化学工学の修士号・博士号を取得した経歴を持つ。メキシコ政府が同氏を「メキシコゆかりの起業家」として強調する背景には、こうした人的なつながりもある。一方、今回の技術開発の主体は米国企業であり、米国で開発された先端農業バイオ技術をメキシコが主要市場に先行して登録した事例と位置付けられる。グリーンライトは2025年10月、同殺菌剤について米国、EU、ブラジル当局に登録申請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしていた。今回、メキシコがこれら主要市場に先行して登録を認め、新規バイオ農薬の審査で迅速な承認ルートを示した点で意義がある。エブラル経済相は同製品について、「世界初のRNAバイオ殺菌剤」と説明し、メキシコ当局(注2)がいち早く承認したことは「世界でもまだ十分に成長していない経済分野への扉を開くもの」として、メキシコの早期参入の意義を強調した。

輸入依存度が高い先端化学分野の国内生産拡大に向けた一歩

グリーンライトは今後、RNAベースの農業用製剤の生産拠点を首都メキシコ市に設ける計画で、投資額は最大1億ドル規模とされる。工場建設は、並行して衛生登録申請中のダニ防除剤の承認後に進む見通し。サルールCEOによると、用地決定後は早ければ12カ月以内に建設を終え、2027年の稼働を目指すという(「レフォルマ」紙8月12日付)。

輸入代替と戦略分野の国内生産強化を掲げるクラウディア・シェインバウム政権の産業政策「Plan México」の下で、同投資は、先端バイオ技術の製造基盤を国内に取り込む事例として位置付けられる。メキシコ政府は、今回の承認を単なる輸入承認ではなく、研究、量産、輸出を含むバイオテクノロジーのバリューチェーンを国内に誘致する案件として位置付けている。

(注1)RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNAなどを用いて特定の遺伝子の働きを抑える仕組み。農薬分野では、害虫や病原菌の生存に必要な遺伝子の発現を抑制することで、対象生物を選択的に防除する技術として利用される。

(注2)メキシコ政府発表では、今回の承認に連邦衛生リスク対策委員会(COFEPRIS)、環境天然資源省(SEMARNAT)、農業食品衛生無害品質庁(SENASICA)が関与したとされる。COFEPRISは衛生登録、SEMARNATは環境面の評価、SENASICAは農畜産食品衛生・植物検疫を所管する。COFEPRISのビクトル・ウゴ・ボルハ長官は、承認プロセスにおいて生物由来の農業資材の分類が明確でなかったため、3機関が協力して手続き円滑化に取り組んだという。グリーンライトによれば、承認には約9カ月を要した(「レフォルマ」紙8月12日付)。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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