米国建材大手の対メキシコ仲裁、NAFTA違反を一部認定も賠償は限定的

(メキシコ、米国)

調査部米州課

2026年07月30日

米国建材大手バルカン・マテリアルズ(Vulcan Materials Company)がメキシコ政府を訴えた国際仲裁において、国際投資紛争解決センター(ICSID)の仲裁廷は7月27日、メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA)違反を一部認定した。ただし、バルカン側への金銭賠償は同社請求額に比べて極めて少額にとどまった。バルカンは、メキシコ政府が同社の石灰石採掘事業に関する合意をほごにし、キンタナロー州での採石事業を恣意(しい)的に停止したとして、2018年にNAFTAに基づく仲裁を申し立てていた。

本件は、バルカンのメキシコ子会社カリサス・インドゥストリアル・デル・カルメン(CALICA)が、プラヤ・デル・カルメン近郊で運営していた石灰石採掘場とプンタ・ベナド港湾施設をめぐる紛争だ。メキシコ政府は、同社の採掘活動が地下水脈やセノーテ(スペイン語で井戸や泉)などに深刻な環境被害を与えたとして、2018年以降、用地閉鎖や操業停止などの措置を講じた。2022年には採掘活動を全面的に停止、2024年には同地域を含む一帯が自然保護区に指定された。

メキシコ経済省は、仲裁廷がバルカンの請求をほぼ全て退け、認められたのは2018年1月のCALICA用地閉鎖に関する一措置のみだったと説明している。同省によれば、同措置を巡る賠償金額は当初請求額の1%未満に相当する(経済省プレスリリース7月27日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ロイター通信も、メキシコ政府関係者の話として、バルカンが求めた約17億ドルに対し、支払額は約1,500万ドル規模、と報じている。一方、バルカンは、仲裁廷がメキシコのNAFTA違反を複数認定したと発表しつつも、賠償額は「取るに足らない額」と評価した(同社プレスリリース7月27日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

仲裁最終判断の詳細は、仲裁規則に基づき一定期間、非公開とされている。クラウディア・シェインバウム大統領は7月28日の記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、バルカン側に一部理が認められたものの、同社には環境被害の修復責任が残るとの立場を示している。

USMCA見直しプロセスへの影響も

本紛争は両国間の政治問題に発展しており、米下院では2026年3月末、バルカン案件を念頭に置いた法案(H.R.7084)が可決された。同法案は、自由貿易協定(FTA)相手国において米国企業の資産が収用または国有化された場合、当該資産や関連インフラを利用する船舶による米国港湾への入港・荷役を制限する権限を付与する内容となっている。本件はまた、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しプロセスで米国側が改善を要求している54の非関税規制の1つとしても扱われているもようで(注)、長期化すれば同プロセスにも影響する。

経済省は7月27日付プレスリリースの最後を、「メキシコ政府は、イノベーション、良好な賃金、環境保護をもたらす外国投資を支持するとともに、経済発展を可能にする法的安定性を確保する上で不可欠な要素として、国際条約に定められた規則と手続きの尊重へのコミットメントをあらためて表明する」と締めくくっており、米国側への配慮をにじませた。

(注)2026年2月3日に行われたシェインバウム大統領の記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおける発言。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

ビジネス短信 2bf62a5c5a5dfe17