米国南部物流の要所として注目のアーカンソー州－知事が東京のセミナーで投資を呼び掛け－

州知事自らトップセールス

冒頭あいさつに立ったジェトロの前田茂樹理事は、アーカンソー州が、自動車のサプライチェーンが広がる南東部と、南部最大の市場を有するテキサス州の間に位置することもあり、特に製造業の誘致・育成に力を入れていると紹介した。また、同州の恵まれた水資源と全米1位の生産量を誇るコメを生かした日本酒造りに取り組む米国人の話に触れ、将来、米国の日本酒どころとなることに期待を示した。

続いて、2015年の就任以降、2回目の日本訪問となったハチンソン・アーカンソー州知事があいさつし、「クリントン元州知事（元大統領）が1980年に日本に州政府代表事務所を設けて以来、日本は重要なパートナーで、現在、州内には日系企業22社が立地している。当州への投資も日本が1位だ」と述べるとともに、日本とアーカンソー州の双方にメリットのある関係構築の重要性を語ったほか、同州の質の高い労働力や低エネルギーコストなどの魅力を紹介し、積極的な投資を呼び掛けた。

多様な投資支援メニューそろう

米国全体の直接投資の動向については、在日米国大使館商務部のパット・キャシディ商務参事官のあいさつの後、千野淳子セレクトUSA商務専門官が「一時アジアに目を向けていた日本企業も、先進国で唯一人口増加基調にある米国への関心を高めている。最近もリスク分散を考えた際に米国しかなかったと語る経営者がいた」と、米国への注目度が増している現状を解説した。

ジェトロの木村誠米州課アドバイザーは自身のテキサス州での駐在経験を踏まえ、米国南部への投資の魅力として、安価な労働コスト、労働組合加入率の低さ、米国内や中南米へのゲートウエーであることなどを挙げ、南部に自動車産業が集積しつつある事実が南部のビジネスフレンドリーな環境を物語っていると述べた。

アーカンソー州のビジネス環境を説明した同州政府日本事務所のニール・ジャンセン代表は、進出企業に対する同州の具体的なインセンティブや質の高い労働力を生むプログラムを流ちょうな日本語で紹介した。同州には、所得税の控除、税金の還付、新規雇用者数に応じた払戻制度やグリーンフィールド向けの立地場所検索システム、さらには2種類の職業訓練プログラムなど投資を支援する多様なメニューがそろう。また、ハチンソン州知事のリーダシップの下、STEM（科学・技術・工学・数学）教育に力を入れており、2015年に全米で初めてコンピュータを義務科目化している。

日本に似た気候や充実した物流網が魅力

セミナー後半には、同州に工場を置く特殊金属線メーカーのトクセン工業（本社：兵庫県小野市）と大手トラックメーカーの日野自動車（本社：東京都日野市）から、同州でのビジネス展開について紹介があった。

1894年創業のトクセン工業代表取締役社長の金井宏彰氏は、1980年代のアーカンソー州進出の経緯を振り返り、南部に位置するタイヤメーカーとの距離や勤勉な労働力、気候が兵庫県と似ていたことに加え、当時のクリントン州知事からの熱心かつ親切な支援もあり、進出を決めたと述べた。また、米国でのビジネス展開に当たっては、「従業員を大切にしている。5年、10年、20年の永年勤続表彰制度を設けており、表彰の際は必ず現地に赴き、一人ひとりプレゼントを手渡している」と、米国での事業継続の秘訣（ひけつ）を語った。

日野自動車の加藤順一生産企画部長は、2007年には海外販売比率が5割を超え、グローバルに展開する同社の取り組みや米国で製造するトラックなどの現況について紹介した。

米国日野製造の小林弘之取締役副社長は「広い米国では物流コストが高くなりがちだが、ミシシッピ川近郊に立地する当社工場は、（全米を東西に横断する）州間高速道路40号線と（南北に縦断する）55号線のインターチェンジに近い。また、西海岸の港湾からトラック部品を積み替えなしで鉄道輸送できるので大変便利だ」と、同州の物流拠点としての強みを挙げた。

また、アーカンソー出身のエドワード・ラウレット米国日野製造副社長は、同州の経済発展庁や環境品質局の支援が厚いこと、同社が近隣の4大学への奨学金やインターンシップに力を入れ、技術力の高い労働者の確保に取り組むなど、州政府や近隣大学と良好な関係を築いていることを紹介した。

（仁平宏樹）