対中貿易赤字の縮小に向けた「100日計画」の策定で合意－トランプ大統領、習国家主席と初の首脳会談－

「米中包括協議」を新たな対話の枠組みに

トランプ大統領は4月6～7日に、フロリダ州パームビーチの別荘で習国家主席と初の首脳会談に臨んだ。共同声明は発表されていないが、レックス・ティラーソン国務長官、スティーブ・ムニューシン財務長官、ウィルバー・ロス商務長官は7日に開いた共同記者会見で、両首脳は、北朝鮮への対応などの安全保障から貿易の不均衡を含む2国間の経済関係まで、幅広い問題について意見を交わしたことを明らかにした。

今後の取り組みについては、2国間対話の新たな枠組みとなる「米中包括協議（The U.S.－China Comprehensive Dialogue）」で協議することとなった。（1）外交・安全保障、（2）包括的経済、（3）法執行およびサイバーセキュリティー、（4）社会・文化問題を軸に協議が行われる。

米中包括協議は、2009年4月にオバマ前大統領と胡錦濤前国家主席が設置した米中戦略・経済対話（S＆ED）に代わる両国間の協議の枠組みになるとみられる。S＆EDは、ブッシュ元大統領と胡前国家主席による経済分野を対象とした戦略経済対話（SED）を政治分野にも拡大したもので、政治・安全保障などを扱う戦略対話（代表：国務長官）と経済分野を扱う経済対話（代表：財務長官）で構成されている。米中包括協議では、政治と経済に加え、米国側の強い関心事項としてS＆EDの場でも議論されてきたサイバーセキュリティーなどが新たな軸として設定された。

中国、米国産牛肉の輸入などで譲歩の可能性も

包括的経済に関する協議は、米国側の代表をムニューシン財務長官とロス商務長官が務める。ムニューシン財務長官によると、協議では貿易や投資など両国の経済関係全般を扱うが、貿易における「より均衡した経済関係」の構築が焦点になるという。

貿易については別途、米国の対中輸出拡大と貿易赤字縮小を目的とした「100日計画」の策定で合意した。ロス商務長官は、100日計画を今回の首脳会談における「最も重要な」成果と位置付けている。

ショーン・スパイサー報道官は4月10日、100日計画に盛り込まれる内容は協議の進展に伴い打ち出されるとしながら、「中国への牛肉輸出と中国市場のさらなる開放、知的財産権の保護、サービス産業に対する外国企業の出資規制の緩和などは、米国の輸出者や企業が長い間望んできたもの」と米国側の関心分野を示唆した。

また、「フィナンシャル・タイムズ」紙（4月10日）は、両国の政府関係者からの情報として、米国産牛肉の輸入解禁と保険・証券会社に対する外資出資規制の緩和で、中国が譲歩する用意があると報じている。

米国での牛海綿状脳症（BSE）の発生を受け、中国政府は2003年から米国産牛肉の輸入を禁止してきた。2016年9月には輸入禁止措置を解除したと発表したが、トレーサビリティー制度の導入など中国が求める輸入に係る技術的な規制が障壁となっており、米国産牛肉は輸出できていない状況だ（注）。

中国政府はまた、証券や生命保険業分野などにおける外国投資家による過半数出資を認めていない。「フィナンシャル・タイムズ」紙は、オバマ前政権下で進められた米中投資協定（BIT）の交渉の中で、中国政府関係者が「中国政府は（これらの分野での）外資規制の緩和を行う用意がある」とコメントしたことを紹介している。

中国政府は近年、債務状況の悪化懸念などから、外国投資家に対してより好意的な政策を打ち出すようになっている（2017年2月14日記事参照）。1月17日には、銀行系金融機関、証券会社、保険機関などに対する外資参入規制を重点的に緩和することを決定した（2017年2月16日記事参照）。

なお、トランプ大統領は4月11日、習国家主席に対して「中国が北朝鮮の問題を解決すれば、米国との貿易協議は中国にとってより良いものとなる」と説明したとし、貿易協議と北朝鮮への対応を関連付ける発言をしている。

（注）全米肉牛生産者・牛肉協会（NCBA）、北米食肉協会（NAMI）、米国食肉輸出連合会（USMEF）は、トランプ大統領に書簡（2017年3月27日付）を送り、習国家主席との首脳会談で米国産牛肉の輸入禁止措置の撤廃を求めるよう要請している。

（鈴木敦）