米USTRタイ代表、対中追加関税の見直し完了は「非常に近い」、公聴会で証言
(米国、中国)
ニューヨーク発
2024年04月18日
米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は4月16~17日、連邦議会上下各院の公聴会(注1)で、2024年のバイデン政権の通商政策(2024年3月5日記事参照)について証言した。
タイ代表は証言の冒頭、「バイデン政権は中間層を強化する経済システムの再構築に取り組んでおり、これに通商政策は不可欠だ」「通商は全ての米国民に公平に機会を与え、包摂的で持続的な成長のシステムを確保するための手段だ」と述べ、通商政策を雇用や経済など米国の中間層に裨益(ひえき)するための手段とするバイデン政権の方針をあらためて強調した。具体的には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の労働問題解決メカニズムを積極的に活用していること(注2)や、ケニアおよび台湾との通商協定交渉で労働分野を最優先に取り組んでいること(2024年4月9日記事参照)などを例示。既存・新規の通商協定などを通じて、貿易相手国の企業に、米国企業が課されるのと同等のコンプライアンス基準を求めて競争条件を平準化し、貿易相手国の労働者の権利保護や米国の雇用・経済的利益の確保を図っていると説明した。
他方で、「中国のような国が非市場的な政策や慣行を用いて産業を支配し続けている場合、全ての人々に公平に機会を与えることは不可能だ」と述べ、特に影響を受けてきた産業として鉄鋼、アルミニウム、太陽光パネル、バッテリー、電気自動車(EV)、重要鉱物を列挙した。これに対して、USTRおよびバイデン政権は、同盟国・パートナー国と協調して対抗するとともに、対中追加関税(301条関税)の見直し(2022年9月5日記事参照、注3)や、海事・物流・造船分野への301条に基づく措置に向けた労働組合からの請願書(2024年3月13日記事参照)の精査を行っていると説明した(注4)。
証言後の質疑応答では、野党の共和党議員が政権の通商政策を強く批判する場面もみられた。下院歳入委員長のジェイソン・スミス議員(共和党、ミズーリ州)は301条関税の見直しについて「見直しが開始されてほぼ2年間、いまだに終わりが見えない」と疑問を呈したのに対し、タイ代表は「われわれは前進しており、私の考えでは(見直しの完了は)非常に近いところまで来ている」と述べた。
また、上院財政委員会少数党筆頭理事のマイク・クレイポー議員(共和党、アイダホ州)は、ジョー・バイデン大統領が中国の鉄鋼・アルミニウムに対する301条関税率を3倍に引き上げるよう要請したことについて(2024年4月18日記事参照)、「関税に関してUSTRと財務省の間で意見の相違があるようだ。この関税賦課に向けた調査と決定はいつ下されるのか」と尋ねた。これに対し、タイ代表は「バイデン大統領がUSTRに対し、中国との鉄鋼・アルミニウムの貿易に関する関税の調整を具体的に検討するよう求めたことを考えると、省庁間の作業が非常に進んだ段階にあることを示すものと受け止めるべきだと思う。われわれは非常に近いうちに結論を出すと予想している」と述べた。
(注1)公聴会は、連邦議会で通商を所管する上院財政委員会と下院歳入委員会がそれぞれ開催した。
(注2)USMCAの「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」の概要や動向については、2023年8月8日付地域・分析レポート参照。RRMはこれまでに米国からメキシコに対して22件が発動されており、直近では2024年4月に米国がメキシコに同国鉱山での労働権侵害の事実確認を要請している(2024年4月5日記事参照)。
(注3)301条関税の概要や動向については、2024年1月18日付地域・分析レポート参照。
(注4)USTRは4月17日、中国の海事・物流・造船分野に対して、正式に301条調査を開始すると発表した(2024年4月18日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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