EU、エネルギー効率化指令案を採択、気候変動対策「Fit for 55」関連法案が続々成立

(EU)

ブリュッセル発

2023年08月02日

EU理事会(閣僚理事会)は725日、2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」(注)のうち、エネルギー効率化指令改正案、代替燃料インフラ規則案(2023年8月2日記事参照)、海運における再生可能な低炭素燃料の利用に関する規則案(FuelEU Maritime)(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これらの法案は官報に掲載後、施行される。

エネルギー効率化指令改正案は、2020年時点の2030年のEU全体の最終エネルギー消費予測値と比較し、2030年に少なくとも11.7%削減することを、法的拘束力のあるEU全体目標として規定する。EU理事会と欧州議会が2023310日に政治合意(2023年3月13日記事参照)したものだ。各加盟国は、EU全体目標の達成に向け、2024年から1.49%の削減が求められる。年間削減率は段階的に引き上げられ、2030年には1.9%削減となる。加盟国は今後、具体的な削減方法をそれぞれ決定することになるが、建物のエネルギー効率改善に向けたリノベーション促進策である建物エネルギー性能指令改正案(2021年12月17日記事参照)や成立済みのEU排出量取引制度(EU ETS)の改正指令(2022年12月20日記事参照)など、関連政策の実施によるエネルギー消費削減が目標の内数として計算される。現地報道では、工費の急激な値上げによりリノベーションの発注がドイツで大幅に落ち込むなど、目標達成に向けた不安材料が散見されている。

Fit for 55政策パッケージ第1弾はほぼ成立、第2弾も順調に進捗

欧州委が20217月に発表した「Fit for 55」政策パッケージ第1弾の法案の多くは既に採択されており(2023年5月12日記事参照)、今回の採択によりほぼ全ての法案の施行が正式に決定したことになる。現在、未採択の法案は、再エネ指令改正案、持続可能な航空燃料(SAF)の生産拡大と普及に関する規則案(ReFuelEU Aviation)、エネルギー課税指令改正案となっている。再エネ指令改正案については、EU理事会と欧州議会が2023330日にいったんは政治合意したものの(2023年4月3日記事参照)、現地報道によると、フランスが原子力の扱いをめぐり、再交渉を要求し採択を延期。その後、EU理事会は616日に妥協案で合意したことから、欧州議会も9月の本会議で採択するとみられる。SAFに関する規則案は、EU理事会と欧州議会は425日に政治合意に達している。

一方で、エネルギー課税指令改正案は、加盟国間で合意のめどがたっていない。同指令はEU域内のエネルギー製品の最低税率などを設定するもので、改正案ではエネルギー製品の量からエネルギー成分に応じた課税への移行やエネルギー製品の環境性能に応じた税率の導入が提案されている。現行指令で認められている海運分野などでの化石燃料に対する適用免除の廃止や最低税率の水準などをめぐり加盟国間で意見が割れており、採択には全会一致での合意が必要であることから、先行きが不透明な状況だ。

欧州委が202112月に発表した「Fit for 55」政策パッケージ第2弾(2021年12月16日記事参照)の法案はいずれも、EU理事会と欧州議会による政治合意に向けた協議に移っている。

(注)詳細は調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(202112月)を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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