バイデン米政権、鉄鋼・アルミ、造船産業の保護施策発表、対中関税引き上げやメキシコからの流入阻止へ

(米国、中国、メキシコ)

ニューヨーク発

2024年04月18日

米国のバイデン政権は4月17日、中国の不公正な慣行から米国の鉄鋼と造船業界を保護するための新たな施策を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。鉄鋼・アルミニウム製品に賦課されている、1974年通商法301条に基づく追加関税率を3倍に引き上げる検討や、同法に基づく造船分野での調査開始、追加関税回避を目的としたメキシコからの製品流入への対処など、広範な措置が含まれる。

政権が発表したファクトシートでは、鉄鋼は米国経済の支柱であり、米国産の鉄鋼は現在も経済と国家安全保障に不可欠だとした。一方で、鉄鋼・アルミ産業の労働者は、中国からの輸出に直面していると指摘。中国の同産業における過剰生産能力と非市場的な投資によって、高品質の米国製品はより多くの炭素を排出して生産され人為的に価格を抑えられた代替品と競争しなければならない、と問題視した。また鉄鋼は、米国製品を運ぶ商船から米国海軍艦艇に至るまで、国内造船産業にとって重要な資材であり、民間造船所は米国海軍の優位性を維持するための工業力を提供し何千ものサプライヤーと雇用を支えている、と重要性を強調した。これらを踏まえ、政権は米国の鉄鋼製造業と造船業を支援するため、新たな行動を取ると発表した。具体的な内容は次のとおり。

  • 中国産の鉄鋼とアルミに対する301条に基づく追加関税率の3倍への引き上げ検討。現状、追加関税率の平均は7.5%で(注1)、これを301条の見直し(2023年12月27日記事参照)と矛盾しない範囲で、3倍に引き上げる検討を米国通商代表部(USTR)に求める。
  • ルールを守らず、安価な製品を市場に氾濫させる国や輸入業者に対する商務省による対応。ジョー・バイデン大統領の就任以来、商務省は鉄鋼関連製品に30以上のアンチダンピング税(AD)と補助金相殺関税(CVD)を課している。同省はまた、中国の輸出者による反競争的行為や中国などによる貿易ルールの回避について、27件の調査を実施している。
  • メキシコから米国に輸入される鉄鋼・アルミに関し、中国などによる関税回避を防止するためのメキシコとの協力。301条や1962年通商拡大法232条に基づく追加関税を回避する目的で、中国などがメキシコ経由で製品を米国に輸出するという問題に対処するために政権幹部をメキシコに派遣した。
  • 造船・海事・物流分野における中国の不公正な貿易慣行に関するUSTRの調査開始。全米鉄鋼労働組合(USW)など5つの労組が提出した請願書を受け(2024年3月13日記事参照)、301条に基づいて、中国の造船分野などにおける慣行に対する調査を開始する。USTRは同日、調査開始を発表した(2024年4月18日記事参照)。
  • バイデン大統領による、米国鉄鋼企業の維持へのコミット。日本製鉄によるUSスチールの買収提案を踏まえ、大統領は、USスチールが1世紀以上にわたって米国の象徴的な鉄鋼企業で、米国内で所有・運営される米国の鉄鋼企業であり続けることが不可欠なことを引き続き明確にする(2024年4月15日記事参照)。
  • クリーンな米国産鉄鋼への投資。2024年3月には、インフラ投資雇用法(IIJA)とインフレ削減法(IRA)を通じて、6つのクリーンな鉄鋼プロジェクトに15億ドルを拠出すると発表した(2024年4月3日記事参照)。これにより、米国の鉄鋼業が低炭素鉄鋼製品のグローバルリーダーとして競争力を維持できるようにする(注2)。

なお、今回の発表は鉄鋼・アルミ産業を中心としたものだが、米国政府高官は、中国の過剰生産能力に対する懸念は他産業にも及ぶと指摘し、「これは1つの産業における輸出急増や政策主導の過剰生産能力の問題ではなく、多産業にまたがる課題だ」と述べている(通商専門誌「インサイドUSトレード」4月17日)。

(注1)例えば、鉄鋼製品が分類されるHTS73類やアルミ製品が分類される76類は、そのほとんどの品目が無関税となっているが、これに301条に基づく追加関税が賦課される。なお、特定の鉄鋼・アルミ製品に対しては、一部の国からの輸入を除き、米国輸入時に232条に基づく追加関税(それぞれ25%、10%)も同時に賦課される。

(注2)これらの投資には、米国鉄鋼メーカーのクリーブランド・クリフスによる、1,000人以上の全米自動車労組(UAW)の雇用を維持しているペンシルベニア州の工場への最大7,500万ドルの投資や、自動車向けのクリーンな鋼板を生産するオハイオ州の工場への最大5億ドルの拠出が含まれる(2024年4月3日記事参照)。なお、USスチールは、クリーブランド・クリフスからも買収提案を受けていた(2023年12月19日記事参照)。

(赤平大寿)

(米国、中国、メキシコ)

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