中央アジアの物流ルートにも影響、新型コロナウイルスの検疫態勢強化
(カザフスタン、アゼルバイジャン、イラン、ウズべキスタン、中国)
タシケント発
2020年03月10日
カザフスタン産業インフラ発展省は3月4日、翌5日以降に同国カスピ海沿岸のアクタウ港とクリク港(注)で、アゼルバイジャンとイランからの船舶や乗客輸送、自動車(トレーラー)輸送(運転手を含む)へのサービス提供を一時的に停止すると発表した。新型コロナウイルス(以下、新型肺炎)の感染拡大防止が目的。ジェトロが同省へヒアリングしたところ、コンテナ輸送(アクタウ港)、フェリーによる鉄道貨物輸送(クリク港)などで船員の上陸が制限される。積み替え作業自体は継続されるが、運転手が必要となるトレーラー輸送(クリク港)は輸送に支障が出る懸念がある。
新型肺炎対策に伴う検疫態勢強化は、中央アジアの物流に影響を与えている。ジェトロが関係者にヒアリングしたところでは、カザフスタン・中国国境のホルゴスの自動車輸送用国境審査場「ヌル・ジョリ」(2018年9月28日記事参照)は3月15日まで閉鎖されている。鉄道輸送の中継点アルティンコリ駅(2020年1月31日記事参照)では、欧州向けブロックトレインなどトランジット貨物は運航されているが、中国国内の工場稼働率の低下を受けて西向け(欧州、中央アジア、ペルシャ湾岸、コーカサス)貨物量の大幅な減少が見られる。ウズベキスタンをはじめとする中央アジア向け貨物輸送にも影響が出ており、ウズベキスタンの自動車組み立て大手「ウズアフトモータース」は3月4日、在庫管理を理由に自動車販売の一時停止を発表した。一部報道では、中国からの部品輸入が滞っていることが原因としている。
今回の対策強化で、カスピ海西岸アゼルバイジャンのバクー国際商業港(バクー新港)も影響を受けかねない。バクーから南西80キロのアリャトにある同港は2014年の供用開始で、同港によると、現在第1フェーズの工事が完了し、合計7つのバースが運用されている。2019年の輸送実績は前年比7.2%増の406万1,600トン(うちトランジット貨物は84.8%の344万4,200トン)で、コンテナ輸送は2018年比53.6%増の3万5,152TEU(20フィートコンテナ換算)が過去最高を記録した。2019年4月にカザフスタン側(アクタウ港)で定期フィーダー船の運航を開始(2019年4月18日記事参照)し、中国からのコンテナ輸送実績が2018年比2倍の5,369TEUに伸びたことが貢献した。同港はアクタウ、クリク両港とともに、カザフスタンとアゼルバイジャン両政府が進めるカスピ海経由東西輸送振興の重要な中継点だが、今回の新型肺炎対策で成長に一時的に「冷や水」をかけられたかたちだ。
現在、カザフスタンやウズベキスタンを中心に、物流が滞る中国製品をカスピ海経由の輸送によるトルコ製品などで代替しようとする企業もある。今回のクリク港の検疫強化で西からのトレーラー輸送が滞る場合、各港湾の輸送実績のみならず、中央アジアへの物資供給にもマイナスの影響が出ることが危惧される。
(注)アクタウ、クリク両港については、2019年11月26日記事、11月27日記事参照。
(高橋淳)
(カザフスタン、アゼルバイジャン、イラン、ウズべキスタン、中国)
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