米産業界、対中投資の過度な規制を警戒、多国間連携も要請

(米国、中国、香港、マカオ)

ニューヨーク発

2023年08月16日

米国政府は、米国企業などによる中国への投資の規制に向けて動き出した。ジョー・バイデン大統領が8月9日に署名した大統領令に基づいて、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能(AI)の3分野で、国家安全保障にとって重要な機微技術・製品に関わる対外投資を制限するプログラムが新設される(2023年8月14日記事参照)。プログラム実施を主導する財務省は8月14日、規則案を策定するため、パブリックコメントを募集する官報を公示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

大統領令の発表を受け、米国の産業界は規則策定に積極的に関与していく姿勢を示した。中国で事業を行う米国企業で構成する米中ビジネス評議会(USCBC)は声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、バイデン政権が国家安全保障のために3分野に的を絞った措置を講じようとしていることを評価しつつ、規則の策定過程で規制対象の技術・製品がどう定義されるかを注視するとした。また「米国は国家安全保障に関係しない(分野での)中国における多くの商取引から利益を得ている」と訴え、規制対象の範囲が過度に広がらないよう牽制した。米国商工会議所も「われわれが生産的に関与でき、また関与すべき商業機会の領域を維持することにコミットし続ける」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。

米国半導体産業協会(SIA)は声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、強力で国際競争力のある米国の半導体業界を確立することが国家安全保障につながると主張し、米国の半導体企業が対等な条件で競争し、中国を含む主要な市場にアクセスできるよう配慮を求めた。なお、財務省は半導体分野について、先端集積回路の設計や製造などに関わる投資は禁止する一方、非先端のものについては届け出のみを課す規則を検討している(注)。

USCBCや大手テック企業などが加盟する情報技術産業協会(ITI)は声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、規制の実施に当たって同盟・パートナー国との連携も促した。米国が単独で規制を設けることで、米国企業だけが不利益を被る事態を懸念しているためだ。産業界は、バイデン政権が2022年10月に導入した先端半導体などの対中輸出管理規則の強化を巡っても多国間連携を要請しており、対外投資規制でも同様の意見が相次ぐ可能性が高い(2023年2月2日記事参照)。他国との協調に関し、バイデン政権高官は8月10日、大統領令に関する記者向けの説明会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで「米国の政策は同盟・パートナー国とともに行動する時に最も効果的となる」と述べ、EU(2023年6月23日記事参照)や英国、ドイツも対外投資プログラムを検討していることに言及した。

大統領令は対外投資プログラムの大枠を定めたにすぎず、規制対象の取引範囲や対象技術・製品の詳細な定義は実施規則の策定に委ねられている。首都ワシントンの通商コンサルタントは、財務省が官報で規則策定に関わる80以上の質問を投げかけたことに注目し、バイデン政権が新規制について産業界の理解を得ることに強くコミットしている証しだと指摘している。

(注)官報のIII.G節を参照。

(甲斐野裕之)

(米国、中国、香港、マカオ)

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