ドイツ政府、蓄電池の全ライフサイクル情報を記録する「パスポート」開発を支援
(ドイツ、EU)
ミュンヘン発
2022年05月09日
ドイツ経済・気候保護省(BMWK)は4月25日、「デジタル蓄電池パスポート」開発に総額820万ユーロを助成すると発表した。BMWKは今回の助成を通じ、材料調達からリサイクルまで、蓄電池のライフサイクルに関わる情報を記録した「デジタル蓄電池パスポート」の開発を進める。
具体的には、ドイツの環境系コンサルティング会社システミックを中心とするコンソーシアムがプロジェクトを進め、川上から川下まで11社の民間企業・研究機関などが参加する。化学大手BASF、ベルギーのユミコア、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)、BMW、研究機関・団体ではフラウンホーファー生産システム・デザイン技術研究所(IPK)、ドイツ工学アカデミー(acatech)などだ。蓄電池性能を分析するソフトウエア開発を手掛けるミュンヘンのスタートアップ企業トゥワイス(TWAICE)も参画する。
2020年12月に欧州委員会が発表したバッテリー規則改正案(2020年12月14日記事参照)について現在、EU理事会(閣僚理事会)、欧州議会、欧州委で非公式交渉「トリオローグ(3者対話)」が行われている。改正案は2026年から新規製造される車両用、定置型、産業用蓄電池が対象で、例えば、バッテリー式電気自動車(BEV)用や産業用蓄電池ではカーボン・フットプリント申告と段階的な二酸化炭素排出量削減が求められる。また2031年からは、蓄電池製造時のコバルト、リチウム、ニッケルなどの再利用率の最低値などを導入予定だ。
一方で、蓄電池市場は国内でも急拡大の見込みだ。2021年12月発足のショルツ新政権は連立協定書で、2030年までにBEVを国内で少なくとも1,500万台普及させる目標を掲げている(2021年12月6日記事参照)。2022年1月1日時点の国内BEV保有台数は61万8,460台で(2022年3月15日記事参照)、目標通りに普及が進めば蓄電池需要は急増する。またBMWKは国内の大型トラックの電動車比率を2030年までに3割超と予測。欧州自動車工業会(ACEA)によると、2020年にEUで運行したトラックのうち電動車は0.24%にすぎない(2022年2月25日記事参照)。
BMWKは現状でも国内のBEVは、同型のガソリン車に比べて、ライフサイクルにおける温室効果ガス(GHG)排出量が4~5割少なく、再生可能エネルギーによる発電が拡大すれば、2030年までにGHG排出量は6割以上少なくなるとする。他方、GHG排出量の一層の削減には、蓄電池材料と蓄電池自体のリサイクル推進が不可欠で、蓄電池のサプライチェーンの透明性向上が必要になる。蓄電池に使用した材料、サプライチェーン、カーボン・フットプリント、性能などの情報を記録した「デジタル蓄電池パスポート」が寄与するとBMWKはみている。同パスポートには、2023年施行のデューディリジェンス法(2021年6月30日記事参照)で求められる人権保護関係の情報も記録される見込みだ。
同パスポートはEUの改正バッテリー規則に適合させる予定。同パスポートの国際的な互換性や利活用確保のため、コンソーシアムは国際アライアンス「グローバル・バッテリー・アライアンス」とも協力予定だ。
(クラウディア・フェンデル、高塚一)
(ドイツ、EU)
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