米国でTikTok規制法成立、規制可否は合憲性が焦点に

(米国、中国)

ニューヨーク発

2024年04月25日

米国連邦議会上院は4月23日、中国発の動画共有アプリ「TikTok」の規制法案を賛成多数(注1)で可決した。ジョー・バイデン大統領が翌24日に署名し、同法案は成立した。同法案はウクライナとイスラエル、台湾に対する支援法案と組み合わされ、緊急追加予算法案(2024年4月25日記事参照)の一部として成立した。

「外国敵対勢力が管理するアプリから米国人を保護する法」(H.R.815外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのDIVISION H)は、敵対国(注2)に本社や主な事業所を有する企業が運営するアプリや、敵対国の外国人が直接的・間接的に所有する企業が運営するアプリなどが対象となる。条文は具体的に、TikTokと親会社の中国のバイトダンスを明示している。法案成立から270日後(注3)に、米国内でのこれらアプリ・サービスの提供や維持、更新などを禁止し、違反した場合には民事罰や司法当局の強制執行の対象とする。ただし、敵対国の企業などによる運営から適切に分割(qualified divestiture)されれば、アプリ・サービスの提供などは.引き続き認められる。

一方で、実際に米国内でTikTokが禁止、ないし米国企業に売却など分割されるかは不透明だ。米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)戦略技術プログラムディレクターのジェームズ・ルイス氏は、同法の前身となる法案(2024年3月14日記事参照)が連邦議会下院で可決された際、「TikTokを禁止することは、合衆国憲法修正第1条で保障される言論の自由との関係で、乗り越えられない可能性が高い、大きな障害に直面する」と指摘外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。実際にこれまで、ドナルド・トランプ前大統領が2020年に米国内でTikTokやWeChatの利用を禁止する大統領令を発出した事例や(2021年6月15日記事参照)、モンタナ州が2023年に同州内でTikTokの利用を禁止する州法を成立させた事例があるが(2023年5月24日記事参照)、いずれも連邦地裁が憲法修正第1条を理由に措置の差し止め命令を出している。政治専門紙「ポリティコ」(4月23日)は、TikTok側が米国人ユーザーの憲法修正第1条で認められた権利の侵害を理由に、訴訟を計画していると報じており、今後、同法の合憲性を巡る法廷闘争に発展する可能性もある。

TikTokに対する規制を巡っては、11月の米国大統領選挙に向けて、有権者心理への影響も注目される。バイデン大統領が規制法案を成立させたのと対照的に、大統領在職中にTikTokに強硬な姿勢を示していたトランプ前大統領は3月、CNBCのインタビューに対して「TikTokがなければ(競合する)フェイスブックをより強くしてしまう」などと述べ、方針転換を示唆していた。3月の世論調査では、TikTok規制法案を有権者の65%が支持する一方で、TikTokが浸透する若年層は過半数が反対するなど、世代間で意見が分かれる構図となっている(2024年3月27日記事参照)。

(注1)賛成79票(民主党48票、共和党31票)、反対18票(民主党3票、共和党15票)、棄権3(共和党3)。民主党の票数には民主党会派の無所属議員3人の票数を含む。

(注2)合衆国法典第10編第4872条(d)(2)で指定される、中国、ロシア、イラン、北朝鮮の4カ国。

(注3)適切に分割される見込みや重要な進展が確認された場合には、最大90日間の延長が1回に限り認められる。

(葛西泰介)

(米国、中国)

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