EU首脳、500億ユーロのウクライナ追加支援で合意、産業支援向け追加予算は大幅削減

(EU、ウクライナ)

ブリュッセル発

2024年02月06日

EUは2月1日、特別欧州理事会(EU首脳会議)を開催し、最大の焦点だったウクライナに対する500億ユーロの支援策を含む中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)の修正案に全会一致で合意した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

現行の2021~2027年MFFに関する修正案は、欧州委員会が2023年6月に提案(2023年6月27日記事参照)。12月の欧州理事会で議論されたが、ウクライナ支援策にハンガリーが反対し、合意が見送られた(2023年12月21日記事参照)。今回、ハンガリーが最終的に賛成に転じ、ウクライナ支援策を含めたMFF修正案が承認された。

500億ユーロの支援策は、330億ユーロの融資と170億ユーロの返済不要の補助金からなり、新たに設置される「ウクライナ・ファシリティー」を通じて、2024~2027年にウクライナに継続的に提供される。欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は、EUの一致団結したウクライナ支持を示すものだとして、合意の意義を強調した。

産業界の競争力強化に向け、提案された新規財政支援予算は大幅削減

今回採択された総括によると、MFF修正分の総額は646億ユーロ。そのうちウクライナ支援策が500億ユーロ、移民対策・近隣の域外国への支援策が96億ユーロ、復興基金財源のEU名義債券の金利上昇に伴う利息支払い対策が20億ユーロなどだ。

一方で、MFF修正案で提示された企業への財政支援策「欧州戦略技術プラットフォーム(STEP)」に関しては、欧州委が提案した100億ユーロの新規予算に対して、欧州理事会は欧州防衛基金向けの15億ユーロのみ認める方針を確認した。STEPは、域内産業の競争力強化策「グリーン・ディール産業計画」(2023年12月15日付地域・分析レポート参照)で、EUレベルの主要な財政支援策に位置付けられている。欧州委は当初、大規模支援基金の欧州主権基金の新設を構想したが、EU予算の拡大で分担金が増えるのを懸念する一部の倹約派加盟国の反対によって断念し、代替策としてSTEPを提案した。STEPの新規予算案の規模は100億ユーロと限定的だが、現地報道によると、倹約派加盟国の反発は続き、2023年12月の欧州理事会では欧州防衛基金以外のEUプログラムの予算増額をいずれも認めないことで事実上合意した。これを受けてEU理事会(閣僚理事会)は1月、STEP設置法案の成立に向けた欧州議会との交渉を開始した。 欧州議会は欧州委案よりさらに多い130億ユーロの増額を求めたが、欧州理事会が今回、15億ユーロの増額で正式に合意したことから、これ以上のSTEP向け予算の大幅な増額は難しいとみられる。

欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、MFFの修正は史上初であり、提案した予算修正の8割が認められたとして、ウクライナ追加支援策を含む今回の合意を高く評価した。一方で、EUレベルの産業界への財政支援に関しては、強化を求める加盟国と倹約派加盟国の温度差をあらためて浮き彫りにする結果となった。次期MFFが開始される2028年まではEU予算の大幅な拡大は難しく、企業への財政支援は加盟国による国家補助(2023年2月3日記事参照)頼みの状況が当面は続くとみられる。

(吉沼啓介)

(EU、ウクライナ)

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