フリーデン新政権が発足、環境と経済の両立重視

(ルクセンブルク)

ブリュッセル発

2023年11月24日

ルクセンブルクでリュック・フリーデン新首相率いる新政権が11月17日に発足し、閣僚人事が発表された。10月に実施された議会選挙(2023年10月17日記事参照)で、野党から与党となったキリスト教社会党(CSV)と、前政権で連立与党を務めた中道右派の民主党(DP)で連立が組まれ、2009年から2013年まで財務相を務めたフリーデン氏(CSV)が首相となった。前政権で首相を務めたグザビエ・ベッテル氏(DP)は、副首相兼外務・欧州・協力・対外貿易・グランドレジョン(注1)担当相となった。

11月20日には、今後5年間の政策方針を概説する連立政権合意書を発表した(プレスリリース、フランス語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。フリーデン新首相は、新政権の優先課題として、消費者や企業の購買力強化、環境、経済を挙げ、それらの課題について調和のとれた政策を進めるとした。

連立政権合意書によると、購買力強化策としては、前政権が既に発表していた個人所得税の税率引き下げ政策を維持する一方、2024年1月1日からさらに引き下げを拡大し、家庭の可処分所得を増やす。新社会人を対象に、一定の所得水準までの税控除も導入する。他方、世帯構成によって変わる控除率の統一を検討するとし、2026年に向けた税制改革案を提案するとした。このほか、企業が従業員にフリンジ・ベネフィット(付加的手当)として支給する現物支給の税務上の取り扱いや、テレワークに関する税制上の枠組みも明確化する。

企業向けには、法人税率を中期的にOECD加盟国平均に近づけるとともに、中小企業に対する減税措置を検討する。さらに、持続可能なデジタルトランスフォーメーション(DX)や研究開発に投資する企業支援向けの税額控除制度を拡大する。前政権が提案したデジタル化やエネルギー転換向けの投資促進に向けた税制改革(2023年7月19日記事参照)を踏襲する見込みだ。賃金の物価スライド(注2)が年に複数回行われる場合は、政府と経営者団体、労働者団体による3者協議(政労使協議)を行い、従業員の購買力と企業の競争力の双方の維持のため、必要な措置を講じる。

環境政策では、再生可能エネルギーの中でも特に太陽光発電の開発を優先する。他方、2030年に向けた国家エネルギー・気候計画(NECP)で設定した温室効果ガス排出量の削減目標達成のために、風力発電や太陽光発電、ヒートポンプ、電気自動車の開発を進めるとした。エネルギー効率化に向けた投資促進のためには、必要な行政手続きを簡素化するとともに、気候変動対策補助金の対象となる不動産を市民が購入または改築する際に、事前融資の原則を導入するとした。建物のゼロエミッション化に向けては、エネルギー・リノベーションに重点を置き、断熱性能の改善や、暖房に使用する化石燃料の段階的廃止による脱炭素化を進める。インフレ圧力を緩和させるために2022年10月に導入したエネルギー価格の抑制策(2022年10月7日記事参照)については、2024年12月31日まで維持するとした政労使協議の決定を堅持するとした。

(注1)ルクセンブルクのほか、ベルギーのブリュッセル首都圏地域、ワロン地域、ドイツ語圏地域、フランスのロレーヌ地方、ドイツのザールラント州およびラインラント・プファルツ州を含む広域地域圏。

(注2)購買力を維持するために、インフレ率に合わせて、従業員の賃金を引き上げる制度。

(大中登紀子)

(ルクセンブルク)

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