バイデン米政権の対外投資規制、議会から法制化や規制拡充求める声
(米国、中国、香港、マカオ)
ニューヨーク発
2023年08月16日
米国のジョー・バイデン大統領が8月9日に署名した対外投資に関する大統領令(2023年8月14日記事参照)に対し、連邦議会からは、大統領令の発表を評価する一方、規制の拡充を求める声が出ている。
米国政府が新設する対外投資プログラムは半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能(AI)の3分野で、国家安全保障にとって重要な機微技術・製品に関わる中国への投資を禁止または届け出の対象とする。プログラムの詳細については、財務省がパブリックコメント募集を経て、規則案を定める。
大統領令の発表を受け、上院トップのチャック・シューマー院内総務(民主党、ニューヨーク州)は「米国からの投資が中国の軍事的進歩の資金源とならないよう確実にする戦略的な第一歩」と評価し、早期の実施を求める声明を発表した。シューマー議員らは2022年9月に政権に対し、議会に先行して対外投資を制限する措置を講じるよう要請する書簡を送っていた(2022年9月29日記事参照)。同書簡に署名し、対外投資の審査制度を設立する法案を推進しているボブ・ケイシー上院議員(民主党、ペンシルベニア州)は声明で「今後数十年にわたって国家と経済の安全を守るため、今こそ超党派の強力な法案を成立させる必要がある」と訴えた。
一方、下院のマイケル・マコール外交委員長(共和党、テキサス州)は声明で、対外投資プログラムが既存の投資(注1)やバイオテクノロジー、エネルギー分野を対象にしていないと問題視した。下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」のマイク・ギャラガー委員長(共和党、ウィスコンシン州)も、受動的な投資が対象外(注2)となり、規制には抜け穴があると批判する声明を発表した。同議員は8月にバイデン大統領に書簡を送付し、大統領令で中国企業を含む投資ファンドの取引なども規制対象とするよう要求していた。
議会は政権の動きと並行して、対外投資を規制する立法措置を検討している。上院では、ボブ・ケイシー、ジョン・コーニン(共和党、テキサス州)両議員が7月、2024会計年度国防授権法案(NDAA、S.2226)の修正案として「対外投資透明性法案」を提出し、NDAAの一部として可決された。同法案は大統領令と同様、懸念国への特定の投資に関し、財務省に情報開示を求める内容だ。投資を禁止する規定はないが、対象分野に極超音速兵器や衛星通信などを含んでおり、大統領令よりも幅広い投資をカバーする。上院と下院は今後、それぞれ可決したNDAAを一本化する作業を行う予定で、対外投資に関する条項が最終法案に残る可能性もある。バイデン政権高官は大統領令に関する記者向けの説明会で、議会の取り組みを評価し、対外投資規制に向けたアプローチについて議会と調整していく姿勢を示している。
(注1)財務省は官報で、プログラムの禁止・届け出要件を規則施行前にさかのぼって適用しない方針を示している。ただし、プログラム実施の参考とするため、大統領令の発表後に完了または合意された取引について、規則施行後に情報提供を求める可能性があるとしている。
(注2)財務省は、プログラムの対象外となる例外取引も指定する予定。官報は、公開市場で取引されている証券やインデックスファンド、上場投資信託(ETF)への投資、米国の親会社から子会社への資金移動などを例示している。
(甲斐野裕之)
(米国、中国、香港、マカオ)
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