欧州委、通商協定の持続可能な貿易の分野で制裁を可能にするメカニズムの導入を提案

(EU)

ブリュッセル発

2022年06月29日

欧州委員会は6月22日、EUの通商協定における「貿易と持続可能な開発に関する章(以下、TSD章)」についての新たな方針を示す政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。TSD章とは、締約国に対して、ILOが定める労働基準および気候変動や生物多様性などの環境基準に関する国際条約の批准や履行を義務付ける規定で、EUが2011年以降に締結した通商協定において盛り込まれている。TSD章は、日EU経済連携協定(EPA)にも含まれている。今回の政策文書でEUは、TSD章に関して、締約相手国との協力をこれまでどおり重視し、さらに強化する一方で、EUによる締約相手国のTSD章の履行の監督を強化し、締約相手国がTSD章に違反した場合には、当該相手国に対する貿易制裁の実施を新たに可能にすることで、締約相手国のTSD章の履行をより確実にすることを目指す方針を示している。

EUは、政策立案や実施における持続可能な開発目標(SDGs)の主流化を掲げており(2021年12月6日付地域・分析レポート参照)、欧州委が2021年に発表した通商戦略(2021年2月19日記事参照)では、持続可能な貿易を通商政策の中心的な位置付けに格上げしている。ただし、EUは、貿易における持続可能性を促進する手段として、近年の通商協定にTSD章を原則として盛り込むことには成功しているものの、締約相手国によるTSD章の実施を確保するためのメカニズムが不十分なことから、TSD章は実効性が乏しいとの指摘がされていた。これは、通商協定の一般的な紛争解決メカニズムとは異なり、現行のTSD章の紛争解決メカニズムにおいては、当事者間の協議による解決が難しい場合に、専門家パネルが設置されるものの、専門家パネルは法的拘束力のない決定を出すにとどまり、EUとしてそれ以上の対応をとることが難しいことが主な原因とされている。

今回の政策文書では、当事者間の協力を重視する紛争解決の枠組みを維持しつつ、ILOの「労働における基本的原則と権利」や気候変動に関するパリ協定といったTSD章の核心的コミットメントに関する深刻な違反が認められ、かつその是正が図られない場合には、関税の一時的な引き上げといった制裁を可能にする紛争解決メカニズムを導入すべきとしている。また、専門家パネルの決定の履行を監督するルールの導入も新たに提案している。ただし、制裁を伴う紛争解決メカニズムの導入には、既存の通商協定の改正が必要となることから、導入の対象となるのは現在交渉中あるいは今後交渉を開始する通商協定に限定される見通しだ。

政策文書ではこのほかにも、再生可能エネルギーやエネルギー効率化などの関連製品・サービスに関する相手国の市場の自由化や、脱炭素化への移行に必要な原材料や製品に関する相手国への市場アクセスの確保を優先的に目指すとしている。

(吉沼啓介)

(EU)

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