L/C発行の遅れにより輸入停滞
(エジプト)
カイロ発
2022年06月24日
エジプト中央銀行は2022年3月に輸入取引時の信用状(L/C)利用義務付けを国内銀行に通知した(2022年2月17日記事参照)が、L/Cは予定どおり発行されず、日本からの輸入が滞るというケースが相次いでいる。このため、日系企業の中には、予定していたエジプト向け輸出を中止したり、今後中止したりするという声も多く上がっている。
日系企業などの情報によると、エジプトが国外から輸入する自動車や機械類、電子機器、化学品など多くの製品に対して、L/Cが発行されない、もしくは発行までに数週間から数カ月かかっているという。これに伴い、販売先の現場では輸入品が不足し、生産・保守・修理などの停止や遅延が相次いでいる。特に自動車販売店は、インフレによる家計の冷え込みに加え、3月の通貨切り下げ(2022年3月25日記事参照)に伴う値上げ、販売予約済み完成車の輸入遅滞などにより、厳しい状況に置かれている。エジプト自動車市場情報委員会(AMIC)の発表によると2022年4月の乗用車売り上げは前年同月比20%減としている。
L/C発行が遅れる理由は、政府が外貨準備の減少に歯止めをかけていることだ。輸入を抑制することで貿易収支赤字を縮小させることが狙いだ。現地日系企業の中には、従来からL/Cを利用する案件も数カ月にわたって発行されないケースもあり、不満の声が出ている。一方、従来どおり輸入されているものもある。それらは食品や医薬品などの生活必需品、製造業向け原料・部品、フリーゾーンに立地する企業向け、防衛や石油・ガスなどの戦略産業向け物資が例外となっている。
各企業が取り得る対策は、輸入相手から最新の情報を入手することだろう。中銀は国内銀行に通達を出しており、国内銀行はL/C依頼先の輸入企業に情報を共有することが多い。通達はアラビア語だが、ウェブサイトに掲載されることもあるため、場合によってはコピーを入手し、輸入関連規則に変更がないか自社でも確認可能だ。また、銀行によっては、外資系であることや、L/C発行手続きに不慣れなことを理由に時間を要し、日系企業が輸入業者や銀行を変更するケースもある。販売契約の際には、通常よりも通関で時間がかかることや港に留め置かれる可能性を想定したほうがよいだろう。このほか、納期に間に合わないことによる顧客・取引先からのクレームや、港に長期間とめ置かれることによる保管料などの追加費用、リスクを検討の上、自社に不利益にならないよう契約に織り込んでおくなどの注意も必要となっている。
6月13日に発表された中央動員統計局(CAPMAS)の貿易統計によると、2022年3月のエジプトの輸入額は小麦や原油価格が上昇する中、前年同月比2.6%の微増にとどまった。自動車は44.7%減、化学品は前年比32.0%減だった。5月の外貨準備高も前月比減となったが(2022年6月13日記事参照)、すぐに輸入規制が緩和されることは期待できない。
(福山豊和)
(エジプト)
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