米議会の米中調査委員会、年次報告で米企業の対中投資の審査制度を提言
(米国、中国、香港、台湾)
ニューヨーク発
2021年11月26日
米国連邦議会の諮問委員会である米中経済・安全保障調査委員会(USCC)は11月17日、年次報告書を議会に提出した。米中関係の現状分析のほか、政策提言を行った。
USCCは冒頭、中国共産党が体制維持に必要な経済・社会課題の克服に向けて、香港や新疆ウイグル自治区への抑圧や国家による経済介入、核兵器を含む人民解放軍の増強などの政策を拡張してきたと報告した。経済分野では、中国政府が金融市場を軍事力強化につながる先端技術の研究開発(R&D)の源泉に利用していることや、恒大集団に代表される債務に依拠した不動産部門に対する介入を指摘した。また、ニューヨーク証券取引所に上場した中国の配車サービス大手の滴滴出行(DiDi)への介入など国内企業への統制が米国の投資家などにもたらす金融上のリスクを問題視した。
金融取引への規制や投資審査の拡充を提言
USCCは中国の株式や債務に投資する米国民の金融リスクに対処する立法措置を議会に要請している。具体的には、中国の事業体と関係を有する「変動持ち分事業体(VIE)」、いわゆるペーパーカンパニーとの取引禁止や、禁止しない場合のVIEの特定やリスク開示義務を求めた。このほか、米証券取引委員会(SEC)を通じて、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報の一環として、新疆ウイグル自治区からの調達や商務省が指定するエンティティー・リストに該当する企業との取引を報告する義務などを提案した。VIEとの取引については、SECが7月に中国企業に追加的な情報提供を求める方針を発表している(2021年8月4日記事参照)。
さらに、USCCは対米投資審査の取り締まり強化を訴えた。米国は、他国からの対米投資審査を行う対米外国投資委員会(CFIUS)を有する。USCCは、CFIUSの審査範囲に関わる「基盤的・新興技術」の定義や範囲の特定が遅れていることに懸念を表明していた(2021年6月9日記事参照)。USCCは、国防長官を代表とする「技術移転審査グループ」をホワイトハウス内に設置し、上記の特定作業や該当技術に関する輸出管理の徹底を商務省に指示することを提案した。連邦議会議員の一部は、輸出管理の裁量を商務省産業安全保障局(BIS)から移管することに賛同している(通商専門誌「インサイドUSトレード」11月17日)。
提言には、米国企業による重要サプライチェーンや製造拠点の中国への移管を行政府が審査し、大統領に取引禁止の裁量を与える法案の検討が盛り込まれた。USCCは「(米国からの)対外投資規制の定型がない」と述べ、中国の主要企業を標的とするだけでは中国の軍事産業の広範なエコシステムをとり逃がすと警告した。議会では、上院のボブ・ケイシー議員(民主党、ペンシルベニア州)とジョン・コーニン議員(共和党、テキサス州)が2022会計年度国防授権法案の一部として類似の提案を行っている。この提案は、米国商工会議所や米中ビジネス評議会などが反対する一方、両議員は成立させる姿勢を示している(政治専門誌「ポリティコ」11月18日)。
他の対中政策としては、中国の事業体が米当局の制裁対象〔商務省のエンティティー・リストや財務省の特定指定国民(SDN)リストなど〕に指定された場合に、自動的に全省庁の制裁リストに追加することや、SDNに該当しない中国の軍事企業への投資規制の強化、新疆ウイグル自治区からの輸入の包括的な輸入差し止め(違反商品保留命令:WRO)などが提言されている。
台湾については、中国人民解放軍が空路・海上封鎖やサイバー攻撃など侵攻に必要な能力をほぼ獲得していると述べ、インド太平洋地域での米軍の抑止力強化などを促している。
(藪恭兵)
(米国、中国、香港、台湾)
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