EU理事会と欧州議会、気候法案を暫定合意
(EU)
ブリュッセル発
2021年04月22日
EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は4月21日、欧州グリーン・ディールの根幹をなす「欧州気候法」案の暫定合意に達したと発表した。欧州気候法は、2050年までの気候中立の達成を拘束力のある目標として法制化し、気候中立への移行を不可逆的なものするために、あらゆる政策分野での対応に向けた枠組みを設定するものだ。EU理事会(2020年10月27日記事参照、2020年12月15日記事参照)と欧州議会(2020年10月9日記事参照)は各機関の立場の決定以降、2050年までの気候中立の達成に関しておおむね合意していたものの、詳細をめぐり対立していたことから、正式な成立に向け両機関による協議が続けられてきた。4月22~23日に米国が主催する気候変動サミットを前に、両機関が14時間に及ぶ協議の末に合意に至ったことで、気候中立をリードしたいEUとしては、目標達成に向けた強い決意をアピールできそうだ。
2030年の削減目標は「正味で55%」
焦点となっていたのは、まず法的拘束力のある2030年までの温室効果ガスの削減目標値だ。欧州議会は1990年比で60%の削減を掲げていたが、最終的にはEU理事会の求めていた「少なくとも正味で(森林などによる二酸化炭素の吸収による貢献分を差し引いた上で)55%の削減」で合意した。ただし、欧州議会は「正味」で考慮する貢献分を225 メガトンの二酸化炭素(CO2)換算量に制限することで他の産業による排出削減を促す一方、2030年までに、二酸化炭素吸収源の拡大に向けた関連法の改正を実施することで、実質的な削減目標は最大で「57%」になるとした。2040年の中間目標に関しては、気候変動に関するパリ協定に基づき、2023年に予定されている1回目の世界全体の実施状況の確認(グローバル・ストックテイク)の後、遅くとも6カ月以内に、2030年から2050年までに許容される温室効果ガスの排出量予測の指標(注)を考慮した上で、欧州委員会が提案する。
さらに、欧州議会が提案していた独立した科学機関である「気候変動に関する欧州科学諮問機関(European Scientific Advisory Board on Climate Change)」の設置が決定された。同機関は、EU政策の気候中立目標との整合性や目標達成に向けた進捗状況の評価を行うことになる。なお、気候中立目標の法制化を受け、2022年末までに約50のEU法令を改正することになるが、こうした改正や今後の新たな法令は、原則として全てEUの気候中立目標に合致することが求められる。このほか、気候中立に向けた、拘束力のない、産業別の行程表の策定も盛り込まれた。
今後、EU理事会と欧州議会での採択を経て、欧州気候法は正式に成立する見込みだ。
(注)パリ協定におけるEUのコミットメントを損なうことなく排出することができる温室効果ガスの正味の上限値。「温室効果ガス予算(GHG budget)」と呼ばれる。
(吉沼啓介)
(EU)
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