海外発トレンドレポート

カナダ(主にバンクーバー周辺)におけるライフスタイル分野(日用品)市場調査
(カナダ・トロント発)

2024年1月19日

1.はじめに

多文化国家であるカナダは、その積極的な移民政策により、人口が毎年1%前後増加、主要先進国トップレベルの増加率となっている。特に2023年第3四半期には3か月間で43万0635人(1.1%増)の人口増を記録。これは1957年第2四半期(1.2%増)以来の高い増加率である※1。一方、GDPは2024年推計値で世界10位、1人当たり名目GDPは約55,528米ドルと日本(34,555米ドル)の約1.6倍で、G7の中ではドイツと僅差の3位となっている※2※3。最低賃金は州によって異なるが、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州(以下BC州)では、時給16.75カナダドル(約1,800円、1Cドル=約108円)で、日本の最低賃金の約1.8倍の水準にある※4。カナダは高付加価値帯の商品購買力が高い国であると言える。

今回は、日本のサプライヤーにとってさまざまな商品のマーケットとしての将来性を感じられるであろうカナダで、主にバンクーバー周辺におけるライフスタイル分野(日用品)商品の市場について調査を行った。

なお、本稿における「日用品」とは、特に記載のない限り、経済産業省の定義による※5

※1
カナダ統計局, 2023年12月19日, Canada's population estimates, third quarter 2023外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※2
IMF, 2023/10, 世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※3
IMF, 2023/10, 世界経済見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※4
BC州, 2023年06月01日, Minimum wage外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※5
経済産業省, 2022年09月14日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます,
「日常生活に密着した物品であって、具体的には、家具、オフィス家具、金属製品、合成樹脂製品、陶磁器、ほうろう鉄器、漆器、ガラス製品、木竹製品、刃物、スポーツ用品、ベビー用品、文房具、楽器、玩具、喫煙具、眼鏡、宝石などを対象としている。」

2.市場概要、規模・成長見通し

1)大都市圏で顕著な人口増加と多様な人種

前述のとおり、カナダ全体では毎年約1%の人口増加がみられるが、その中でも人口増が特に顕著なのはトロント、モントリオール、バンクーバーなどの大都市とその周辺地域である。

グレーターバンクーバーと呼ばれる、バンクーバー市を中心とした23の周辺都市・地域の人口は264万人(2023年)で、トロント、モントリオールに次いで、カナダで3番目の都市圏である。その中心となる人口最大のバンクーバー市は人口63万人、次いでサレー市51万人、バーナビー市23万人、リッチモンド市20万人、コキットラム市14万人と続く※6

2021年のカナダ国勢調査によると、バンクーバー市の人口の半数以上はVisible Minority※7である(表1)。アジア系住民約30万人の約半数は中国系で、次いで東南アジア、日本人は約1万人と少数である。在バンクーバー日本国総領事館管轄地域(BC州及びユーコン州)に在住する在留邦人は35,507人(2018年時点在留届ベース)、日系人人口は約55,000人(2021年カナダ国勢調査ベース) であった。人口が集中するバンクーバー都市圏では大きな購買力が見込めると同時に、その多様な人種構成は、消費動向に大きな影響を与えていると思われる※8

※6
Canada Population, 2021年10月26日, Vancouver Population 2023外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※7
Visible Minority とは、カナダの国勢調査における用語で、白人・先住民族以外の人種のこと。
※8
Statics Canada, Census Profile, 2021 Census of Population外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
表1.バンクーバーの人種内訳
Ethnic Origin Population
Asian 306,450
European 297,700
Other North American 77,505
North American Aboriginal 17,335
Latin, Central & South American 15,115
African 9,715
Oceanian 6,045
Caribbean 4,270

2)カナダにおける日用品市場の規模

2022年のカナダの実質GDP成長率は3.4%となり、2021年の5.0%からは鈍化したものの、新型コロナウイルス禍前の2019年(1.9%)を上回った。支出項目を前年比でみると、GDPの構成比で6割近くを占める家計最終消費支出が4.8%増(寄与度2.6ポイント)と、最大の押し上げ要因となっている。

2022年のカナダ経済について、ジェトロは「輸入の伸び(7.5%増)が輸出の伸び(2.8%増)を上回り、マイナスに寄与した。インフレ率の指標となるコアの家計最終消費支出価格指数は前年から4.2%上昇と、1991年以来最も高い上昇率を記録した」※9としている。

3)成長見通し

過去10年間の日用品の輸入動向をカナダの貿易統計で見てみよう。 2022年、カナダの日用品の輸入額は568億6700万Cドルで、新型コロナウイルス禍の影響はあったものの、過去10年間で約1.6倍に増加している(図1)。

図1:カナダの日用品輸入額

全世界からカナダが輸入する日用品の額はカナダドルで、2013年$34,479,746,098、2014年$37,839,967,779 、2015年$42,393,211,181、2016年$42,944,933,332、2017年$44,238,226,498、2018年$45,597,472,589、2019年$446,550,053,087、2020年$44,834,130,190 、2021年$47,471,940,001、2022年$56,867,161,519。2013年から2022年まで10年間で約1.6倍に増加。

出所:カナダ統計局※10

※10
カナダ統計局, HSコードは以下のものを用いた。3924, 392610, 392620, 392640, 42, 4419, 4420, 442110, 442191910, 4601

図2は日本からの日用品の輸入額の推移を表すが、こちらも10年間で約1.9倍に増加している。日本からの日用品輸入額は、全世界からの輸入額の1%にも満たないが、その伸びは全世界からの輸入額の伸びを上回っている。今後更なる輸入増大が期待される。

図2:カナダ日用品輸入額(日本から)

日本からカナダが輸入する日用品の額はカナダドルで、2013年$202,099,758 、2014年$238,693,197 、2015年$247,532,570 、2016年$281,726,690、2017年$266,935,008、2018年$280,845,085、2019年$317,434,311、2020年$260,147,929 、2021年$313,631,481、2022年$380,067,132。2013年から2022年まで10年間で約1.9倍に増加。

出所:カナダ統計局※11よりジェトロ作成

※11
カナダ統計局, HSコードは以下のものを用いた。3924, 392610, 392620, 392640, 42, 4419, 4420, 442110, 442191910, 4601

3.日本の日用品人気の背景

1)訪日旅行者が増加

カナダからの出国者数の推移を見てみると、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大した2020年以前の7年間はほぼ横ばいである(図3)。そのうち、日本への旅行者数は右肩上がりとなっている(図4)。2019年には訪日カナダ人数が史上最多の375,262人と6年間で約2.5倍増となった※12。カナダは移民が多いため先祖の出身地への旅行が多いことや、寒冷地であるため温暖な地域への旅行が好まれることを考えると、このような特殊要因がない日本が、旅行先として人気を博していることは注目に値する。

なお、2019年の日本政府観光局(JNTO)は、目的別統計の結果から、カナダからの訪日旅行者数について、観光目的が全体の90.4%を占めた(339,319人)ことを明らかにし、2012年の77.6%から大幅に増加したことを指摘している※13。また、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」(2019年)を踏まえ、観光目的の訪日カナダ人の興味対象は、訪日前の段階では日本食や日本酒、自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、ショッピング、歴史・伝統文化体験等である※14ことも指摘している。

2023年になって、渡航者数が新型コロナウイルス流行以前の水準に戻りつつあること、それに伴いカナダと日本を結ぶ航空路線が再開している※15ことなどを考えると、今後一層カナダからの訪日者数は増加することが期待される。

図3:カナダからの出国者数

カナダ人外国旅行者数推移:2013年 32,970,000人、2014年33,520,000 人、2015年 32,270,000 人、2016年 31,280,000 人、2017年 32,730,000人 、2018年 33,440,000人 、2019年 33,060,000人 、2013年から2019年までの6年間はほぼ横ばい。2020年 8,970,000 人 、2021年4,950,000 人  の2年間は新型コロナパンデミックの影響で激減。

出所:日本政府観光局(JNTO)※16からジェトロ作成

図4:カナダからの訪日旅行者数

訪日カナダ人旅行者数推移:013年 152,766 人、2014年 182,865 人、2015年 231,390 人、2016年 273,213 人、2017年 305,591 人 、2018年 330,588 人 、2019年 375,200 人 、2013年から2019年までの6年間で約2.5倍に増加。2020年 53,365 人 、2021年 3,536 人 の2年間は新型コロナパンデミックの影響で激減。

出所:日本政府観光局(JNTO)※17からジェトロ作成

2)キッチン用品が人気

日用品の中でも最も生活に密着しているキッチン用品※18について、カナダでの現状を見てみよう。

輸入額を国別に見てみると、中国からが全体の50%以上を占め、次いで米国が約25%、次いで日本、ベトナム、メキシコ、ドイツ、台湾などとなっている※19

図5では過去10年の日本からの輸入額の推移を示している。これを見ると、2013年から2022年までの10年間で輸入額は約2.2倍に増えている。特徴的なのは、2020年から2021年にかけて輸入額が急増している点である。新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要の影響で、コロナ禍にもかかわらず需要が拡大したのではないだろうか。

※18
キッチン用品には、プラスチック製、木製、陶磁器製、ガラス製などの食器類、カトラリー等を含む。
※19
カナダ統計局, HS コード上4桁3924, 4419, 6911, 6912, 7013, 8215の合計。

図5:カナダにおけるキッチン用品輸入額(日本から)

カナダの日本からキッチン用品輸入額はカナダドルで、2013年$21,654,132 、2014年$20,990,371 、2015年$27,394,881 、2016年$27,031,266 、2017年$28,385,495 、2018年$31,593,824 、2019年$30,945,212 、2020年$34,564,326 、2021年$48,771,828 、2022年$48,478,082 2013年から2022年まで10年間で約2.2倍以上の増加。

出所:カナダ統計局

4.カナダ及びバンクーバーのマーケットの特徴と動向

多民族・多文化国家であるカナダは、さまざまな民族、人種それぞれのバックグラウンドを大切にした生活スタイルが尊重される。そのため、消費者の嗜好も多種多様で一様に語ることはできないが、そのような複雑なマーケットの中でも一般的な消費行動を予想するために、カナダ及びバンクーバーにおける日用品市場の大きな傾向を押さえておきたい。

1)E-Commerce(EC)の台頭

2018年2月14日付ジェトロビジネス短信『企業が投資に前向き、拡大するEC市場(カナダ)』※20は、「それまで既存のカナダの小売企業が実店舗の売り上げ減少を懸念し、積極的にECの展開を行ってこなかったが、為替や関税、輸送などのコストがかかったとしても、カナダより品ぞろえが豊富な米国のECサイトを利用する消費者が一定数カナダに存在する」とし、ECを利用する消費者が拡大することを予測した。もともとカナダ人はアメリカ人よりも保守的な傾向があったといわれるが、新型コロナウイルスの感染拡大で店舗での買い物が制限されたことにより、オンラインショッピングが一気に普及した。元来店舗販売が主流だった家具・インテリア、スポーツ用品、ホビー、衣料品、アクセサリー等の分野でも、オンラインショッピングが進み、店舗での売り上げが減少した。カナダのEC市場は2022年から27年までの5年間で年平均14.5%成長するという予想※21もあり、この販売手法の変化が小売業界の構造に大きく影響を及ぼすことは間違いない。

カナダのEコマース売り上げトップ5は、Amazon, Walmart, Costco, Home Depot, Appleと、いずれも米国の巨大企業がカナダで展開しているものである。一方、カナダ発祥のプラットフォームとして、世界企業となったShopifyがあり、中小企業でも同社のプラットフォームを利用すれば低コストでEコマースが始められる。

カナダにおけるEコマースの最大のメリットは、カナダの10倍の規模がある米国市場に容易にアクセスできることである。ロジスティックスや税の問題など注意点はあるが、実店舗を必要としないEコマースはクロスボーダーのビジネスの近道である。なお、日本とカナダにはCPTPP(TPP11)、カナダと米国にはCUSMA(カナダでの呼称。米国ではUSMCA)という地域間の経済連携協定・自由貿易協定が締結されている。これらには関税の減免措置があり、越境ECの推進要因である。

2)インフレによる生活費増大の影響

2022年6月に8.1%まで上昇したカナダ消費者物価(CPI)上昇率(前年同期比)は、2023年12月に3.1%まで鎮静化した。この期間に日加間の為替レートは大幅に円安に進んだが、高インフレにより消費者の購買行動が制限されていることから、円安による日本からの輸入品の価格効果は実感されない。バンクーバー周辺地域においては、悪化する住宅事情も、消費者の消費行動に影響を与えている。

図6からわかるように、バンクーバー周辺地域の不動産価格高騰は、この10年あまりで基準価格が約2倍になっている。実際、バンクーバー市内ではどんなに古くて小さな家でも一軒家であれば100万Cドル(約1億800万円)以下では購入できない。意欲的な購買層であるミレニアル世代の平均的な世帯年収では、タウンハウスどころかコンドミニアムの購入もままならない。

保険会社RATESDOTCAによると、バンクーバーの世帯年収の中央値は86,988Cドル(約940万円)で、住宅ローンで購入できる最高額は347,000Cドル(約3750万円)である。一方、バンクーバーの住宅の平均価格は1,211,700Cドル(約1億3000万円)であり、平均的な住宅価格は平均的な世帯が購入できる価格より約250%高いということである。ちなみに、2023年12月時点での5年ものの住宅ローンは約6%で、20%の頭金が必要であることから計算すると、頭金が日本円で約2,600万円、30年ローンで月々の支払いが72万円となる。では、持ち家は諦めてしばらくは賃貸に住むにしても、1ベッドルームで平均1,906Cドル(約20万円)/月、2ベッドルームでは2,872Cドル(31万円)/月という賃貸不動産事情が、働き盛りで購買意欲旺盛な若者を、より郊外へ、より狭い住居へ移行させている。これは日用品をはじめとする消費財の購買意欲にも大きな影響を与えている。

図6:グレーターバンクーバー地域の不動産基準価格推移

 Single Family: 2005年 $ 563,400 2006年$ 669,500 2007年 $753,200 2008年$ 800,800 2009年$751,500 2010年$ 875,200 2011年$1,052,400 2012年$ 1,053,400 2013年$ 1,044,100 2014年 $1,110,700 2015年$ 1,324,400 2016年$ 1,765,900 2017年$ 1,732,000 2018年 $1,606,700 2019年 $ 1,425,200 2020年 $ 1,521,200 2021年$ 1,803,900 2022年$ 2,000,600  2023年 $ 2,014,900 / Townhouse: 2005年$ 305,500 2006年 $ 361,200 2007年$ 399,700 2008年$ 427,500 2009年 $ 404,000 2010年 $ 451,800 2011年 $ 471,200 2012年$ 467,200 20213年$ 465,100 2014年$ 485,600 2015年 $ 525,900 2016年 $ 681,800 2017年$ 776,200 2018年 $ 836,900 2019年 $774,700 2020年 $ 807,100 2021年$ 941,700 2022年$ 1,091,000 2023年 $ 1,104,600 $ / Apartment:2005年 $ 237,100 2006年 $ 288,500 2007年 $ 321,400 2008年$ 336,700 2009年$ 322,100 2010年 $ 346,000 2011年$ 363,300 2012年 $ 360,000 2013年$ 363,800 2014年 $ 370,400 2015年 $ 399,000 2016年 $ 501,300 2017年$ 596,100 2018年 $ 660,000 2019年 $ 598,000 2020年 $ 618,500 2021年 $ 673,900 2022年 $ 752,300 2023年$ 771,600

出所:CREA-The Canadian Real Estate Association からジェトロ作成

5. 売れ筋、トレンド

ここまでカナダ全体における市場を中心に見てきたが、以下はバンクーバー都市圏における売れ筋やトレンドについて、実際にバイヤーに聞き取り調査した内容を基に考察してみる。

カナダにおけるライフスタイルは、Sustainability(持続可能性)、Environment(環境)とHealth(健康)という大きな流れに関心が集約されている。特に高級な商品に関してはこの傾向が顕著で、高品質でデザイン性の高い製品に対する消費者の需要の高まりにも牽引され、これらの市場は着実な成長を遂げている。近年の消費者の傾向には以下のように大きく3つのトレンドがある。

1)環境に配慮した商品志向

バンクーバー市では2022年1月1日から、全国に先駆けてプラスチック製レジ袋の使用が禁止され、使い捨て飲料カップの有料化が開始された。このような環境意識の高まりから、持続可能で環境を考慮したデザイン製品や、プラスチックを使用してないなどの環境に優しい素材、ミニマルな食器類、人間工学に基づいたシンプルで使いやすい文房具、革新的な家庭用装飾品などが需要を伸ばしている。

バンクーバーとウィスラーでギフトショップを20年以上営んでいる販売店の店長は、「バンクーバーでは、特に若者が環境に優しい商品に敏感だ。ビーズワックスラップ、ディッシュクロス、エコバッグのように何度も使える商品が特に人気で、商品を選ぶ際もプラスチックを使用してないなど素材をチェックする人が多い。また、ぬいぐるみの人気商品”Jellycat”は、種類が豊富でコレクターアイテムとしてリピーターが多いが、作りがしっかりしていて長くそばに置いておけることが人気の秘密」と語る。なお、顧客の多くはInstagram などのSNSを頻繁にチェックしており、いかに商品の価値を伝えるかが重要であると付け加えた。

2)健康志向、ウェルネス商品、ペットブーム

2021年に行われた調査※22によると、カナダでは健康志向、ウェルネスへの関心が高まっている。特にバンクーバーなどの都市部では、その消費行動は健康食品やサプリメントにとどまらず、ヨガやフィットネス関連商品、スポーツ用品、スマートウォッチなどの健康管理商品に及んでいる。

また、パンデミック以降さらに盛り上がるペットブームも消費行動につながっている。犬、猫などのペットは家族同様で、その影響からか犬、猫をモチーフにしたおもちゃや洋服、アクセサリーに至るまで消費は拡大している。また前出のギフトショップでは、エコバッグ、タンブラー、エプロンなど、どんな商品でも犬や猫のプリントがあるものはよく売れているとのことだった。

3)日本の伝統文化、地方の発信力

日本を訪れるカナダ人が増えており、和食、日本酒、抹茶など食のブームに加えて、日本の伝統文化や繊細な技術への関心は高まっている。バンクーバーにおいて高級日本食レストランで成功し、日本食材や陶芸品、小物雑貨、服飾類も販売する販売店の責任者に話を聞いた。

この販売店では京都の著名な絵師とのコラボで生まれた自社商品など、和的な要素の中に一度見ると忘れられない印象的で力強いデザインが受け入れられている。「当店では日本文化をカナダへ、そして世界へ発信することを目指しているため、日本にもスタッフを一人置いて、常に日本各地にある名産品を探している。そしてその販売方法がトレンドに乗っていたといえる」という。一方、「商品を紹介する際に、価値を十分に伝えられていないものが多い。その商品の背景にある価値そのものを知ってもらうと同時に、それが身の回りにあることでどんな楽しい、心豊かな生活が広がるかを想像できるような商品説明が必要。またネーミングも重要で英語ネイティブにも受け入れられるよう吟味が必要である」と語った。

カナダでは、日本の歴史に裏付けられた伝統文化、芸術、工芸品などに魅力を感じる人が多い。まだ北米ではあまり知られていない地方の文化発信に期待したい。

手作り工芸品への人気は根強い(ジェトロ撮影)

4)好きなものに囲まれた生活

在宅勤務が普及したことにより、自宅で過ごす時間が増加し、その結果家具、インテリアなどへの消費拡大、快適な生活のためのお気に入り商品など、自宅生活を充実させてくれる商品にお金をかける傾向が生まれている。バンクーバーで人気の高い、生活雑貨・スタイル商品を販売する店舗のオーナーに話を聞いた。

「お店では誰もが衣食住に関する自分だけのお気に入り商品を見つけてもらえるよう商品構成を工夫している。顧客の傾向としては、質のよいものを購入し、お気に入りのものに囲まれた生活を望む人が増えている。本格的な日本の伝統文化に浸るというよりは、茶道の真似事で抹茶を点てる道具をそろえたり、華道の道具として剣山やせん定ばさみを買い求めたりする人も増えている。本棚にお気に入りの本を少しずつ並べていくように、生活の中にお気に入りのものを少しずつそろえていく贅沢を味わうのがトレンドのようである。またその場合の本棚は、量産品でなく、少し高価であっても自分のテイストに合った風合いの一点ものを選ぶであろう」という。バンクーバーの極端な不動産価格の高騰によって、小さな空間でそれほど贅沢をしなくても、気持ちよく生活していくための知恵が日用品への投資のメリハリをはっきりさせている傾向にあると思われる。

顧客の傾向を踏まえて商品を陳列している(ジェトロ撮影)

5)日系イベントに見られる手作り製品の人気

バンクーバーでは日本文化の発信を目的としたさまざまなイベントが開催されている。春の桜祭り、夏祭り、クリスマスジャパンマーケット等である。そこでは、日本の小物や雑貨、ファッションやアート、フードなどが紹介、販売されている。地元の陶芸家が作ったお皿や湯飲み、アクセサリー、和風小物などが人気で、ほとんどのベンダーが自身のウェブサイトやInstagramを通じて販売している。特に彼らがオンライン販売サイトとして利用しているETSY※23には、ハンドメイドクラフトが多く出展されており、売れ筋の傾向などつかむにはよいかもしれない。年4回開催されるジャパンマーケットに出店していた陶芸アーティストは、「抹茶ブームでお茶関係の商品はいくら作っても間に合わないくらいだ。和風で手作りの1点ものというだけでも、愛着を感じて購入していくカナダ人が多い」と話す。イベントによっては海外からのベンダーも受け入れているため、テストマーケティングとして参加してみるのもよいかもしれない。

ジャパンマーケット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
開催時期・期間
:年4回(春夏秋冬)週末の2日間
場所
:Robson Square Vancouver Downtown
ベンダー出店数
:約100
入場者数
:約7,000人/2日間

手作りのもの、日本から輸入されたものなどが並んで売られている(ジェトロ撮影)

日本文化を背景とした製品への関心は高く、特に和食、酒、抹茶などの人気の高まりから、包丁、箸、皿、土鍋など、機能性、デザイン性を求めた購買層が多くなっている。

6.ターゲット購買層

このような日用品・スタイル商品の購買層の中心は、アッパーミドルクラスのX世代(50―60歳代)、そしてデジタルネイティブであるミレニアル世代(30― 40歳代)である。バンクーバーのX世代は不動産高騰の前に自宅を購入することができ、多少余裕のある人が多い世代である。それに対してミレニアルは、狭い賃貸に住む割合は高いが、環境意識が高くデザインに敏感な人々が多い。彼らは、機能性とデザイン性が融合した製品を高く評価している。自身が所有するものには環境に配慮したものであることが大前提で、その上で、デザイン性や機能性を重視している。衣料品ではバンクーバー発祥のlululemonやArc’teryx、若い女性に人気のAritzia、防寒着として日本でも人気のCanada Gooseなどがよい例で、機能性とデザイン性がそろっていれば少々値が張るものでも1着、2着でなく、継続的に大量に購入するファンになり得るということを意味している。もちろんそれらには高品質であるという条件が必須であり、持続可能性の観点からもよいものを大切に長く所有したいという生活スタイルがうかがい知れる。

これらの購買層としては、専門職、IT系企業に勤めるミレニアル世代の男女など、所得が10万Cドル(約1,080万円)を超える高所得世帯が中心と考えられる。

7.市場参入のチャンスがあると思われる製品例と参入時のアドバイス

バンクーバー周辺における小売店、バイヤーの置かれている状況を踏まえた上で、カナダ市場に参入するためのポイントをまとめてみた。

  1. 環境に配慮した商品であるか
  2. 日本の伝統文化や和のテイストが感じられるか
  3. 多少値がはっても長く傍に置きたい商品であるか
  4. デザイン性や機能性を兼ねそなえているか
  5. E-Commerceへの対応

ジェトロでは、日用品の海外への売り込みを希望する日本企業に対する支援策を用意しています。ご関心のある方は、下記ウェブサイトをご参照ください。


作成
ジェトロ・トロント事務所
バンクーバー分室
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)トロント事務所が委託先Cascadia WBCに作成委託し、2024年1月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびCascadia WBCは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびCascadia WBCが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

アンケートにご協力ください

ジェトロでは、皆様の海外ビジネス展開のご参考とするべく、各国のニーズ・トレンド情報を収集しています。今後の参考のため、以下のアンケートへご協力頂けましたら幸いです。

お問い合わせ

本レポートに関するお問い合わせは以下のフォームよりお願いします。
担当:海外展開支援部戦略企画課(個別支援班)