米環境保護庁、化石燃料火力発電所からの汚染を削減するための最終規則を発表

(米国)

ニューヨーク発

2024年05月08日

米国環境保護庁(EPA)は4月25日、化石燃料火力発電所からの汚染を削減するための一連の最終規則を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。EPAは、大気浄化法、水質浄化法、資源保全回収法などに基づき最終決定されたこれらの規則が、電力部門からの気候、大気、水、および土地の汚染を大幅に削減できる、と説明している。

最終規則には次のことが含まれる。

  1. 長期稼働を計画している既存の石炭火力発電所と、新規のベースロード・ガス火力発電所は炭素排出量の90%を抑制。
  2. 石炭火力発電所の水銀および大気有害物質基準(MATS)を強化・更新し、有毒金属の排出基準を67%厳格化し、既存の褐炭火力発電所からの水銀排出基準を70%削減。
  3. 石炭火力発電所からの廃水を通じて排出される汚染物質を年間6億6,000万ポンド(約3億キログラム)以上削減。
  4. 漏洩(ろうえい)して地下水を汚染した可能性のある以前の処分場を含め、これまで連邦レベルで規制されていなかった地域に廃棄される石炭灰の安全な管理の義務付け。

これら規則のうち1.は、既存の石炭火力発電所と新設の天然ガス発電所における二酸化炭素(CO2)排出の厳格な管理を義務付けるものだ。排出削減のためのシステムは、炭素回収・隔離・貯留(CCS)をベースとし、発電所からのCO2排出量を90%削減できるとしている。EPAによる規制の影響分析では、こうした排出抑制技術の活用を通じ、2047年までに全体で13億8,000万トンの炭素汚染物質が削減されると予測している。これは、ガソリン車3億2,800万台の年間排出量、または米国電力部門全体のほぼ1年間の排出量の削減に相当するとされる。

EPAでは、2023年5月11日に発電所に対する温室効果ガス(GHG)の排出規制強化案を発表以降、1年をかけて規制案の最終取りまとめを進めてきた(2023年5月12日記事参照)。最終規則の発表に際し、EPAのマイケル・リーガン長官は「これらの基準を策定することで、汚染を削減すると同時に、電力会社が賢明な投資を行い、信頼性の高い電力を供給し続けることができるようにする」とのコメントを発表した。

一方、電力会社からは今回の最終規則に対し、達成は不可能との反発が出ている。石炭火力発電所を運営する中小電力会社を代表する全米農村電力協同組合協会のジム・マセソン最高経営責任者(CEO)は「これは電力の信頼性を損ない、すでに逼迫している電力網に重大な結果をもたらす」と反対の立場を明らかにした(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版4月25日)。米国最大の電力会社を代表するエジソン電気協会のダン・ブルイエットCEOも「2032年までの規制順守に必要なCCSインフラの許可、資金調達、構築を行うのに十分な時間はない」との見方を示した(ブルームバーグ4月25日)。CCS導入に多額の投資を要する今回の規則は、既存の石炭火力発電所の段階的廃止を企図したものとの見方もある。石炭の産出地であるウエストバージニア州のパトリック・モリッシー司法長官は「直ちに法廷でこの規則に異議を唱える」と発言しており(ポリティコ4月25日)、最終規則は今後、法廷に持ち込まれる可能性もある(注)。

米国では近年、ハリケーンや山火事、洪水などの大規模な自然災害が続いている。気候変動に対する関心は着実に高まっており、特に若者の間で危惧する声が強いとされる。11月の大統領選挙を控え、今回の最終規則はバイデン政権を支持する環境団体や気候問題に関心の高い層への配慮を示したかたちだが、実際の運用が進むのか今後の行方が注目される。

(注)米国最高裁は2022年6月30日、連邦政府が発電所に課す排出規制に関して、連邦政府に包括的な規制を行う権限はないとの判断を下している(2022年7月1日記事参照)。

(米山洋)

(米国)

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