米国務省、2023年人権報告書を公表、イスラエルとハマスの衝突は「人権に関する深刻な懸念」

(米国、イスラエル、イラン、ロシア、ウクライナ、スーダン、中国、日本)

ニューヨーク発

2024年04月23日

米国国務省は4月22日、国連の世界人権宣言やそのほかの国際協定で認められた人権に関して、2023年の出来事を中心に世界各国の状況をまとめた2023年版国・地域別人権報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。

報告書序文では、ウガンダ、イラン、アフガニスタン、ミャンマー、中国、キューバ、ニカラグアの各国内における政治的・宗教的・性的少数派に対する人権侵害を指摘した。イランに関しては、同国政府による反体制派への暴力的抑圧行為が国内のみならず国外でも行われているとしたほか、前年報告書(2023年3月23日記事参照)に引き続き、女性の服装規則違反を理由にした処罰などの差別を指摘した。中国に関しては、同国新疆ウイグル自治区で、ウイグル族など少数民族や宗教的少数派の人々に対して、「中国政府がジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、強制労働、そのほかの人権侵害を続けている」とした。

そのほか報告書では、ロシアによるウクライナ侵攻、スーダン内戦、イスラエルとハマスの衝突(注1)などの紛争下における人権侵害を指摘した。ウクライナ情勢に関しては、ロシアが数々の戦争犯罪や残虐行為を行い、占領地域の子供をロシア側へ強制移送していると例示した。スーダン内戦に関しては、対立するスーダン軍と準軍事組織の即応支援部隊(RSF)の双方が同国全土で大量殺戮(さつりく)・不当拘束・性暴力を含む暴力行為を繰り広げていると指摘した。また、イスラエルとハマスの衝突に関しては、「人権に関する深刻な懸念を引き起こしている」と問題視した。2023年10月のハマスのイスラエル攻撃(2023年10月10日記事参照)で1,200人が殺害され、約230人のイスラエル人と外国人が人質として拉致され、性暴力を含む凄惨(せいさん)な暴力行為が行われたとした。その後のイスラエルのパレスチナ自治区ガザ地区における地上作戦についても、「イスラエルが自衛権を行使する際、われわれは、イスラエルが国際法に従って軍事作戦を実施し、民間人を保護するために実行可能なあらゆる予防措置を講じなければならないことを明らかにしてきた」「ガザにおける何万人ものパレスチナ市民の死亡・負傷を巡る懸念を強く訴え続けている」と記載した。

他方で、日本、ケニア、エストニア、スロベニアでは、性的少数派の人々の権利に関する重要な進展があったと評価した。具体的に、日本に関しては、2023年6月に成立した「性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)」の事例を挙げた。

米国のバイデン政権は、人権保護を民主主義と並んで、世界秩序の安定を下支えし米国の国家安全保障を強化する重要な要素と重要視している。通商政策においても人権保護は中核的な目標に位置付けられており、例えばバイデン政権下の2021年12月に成立したウイグル強制労働防止法(UFLPA)は、新疆ウイグル自治区で生産された製品などは強制労働を利用して生産されていると推定し、米国への輸入を原則禁止している(注2)。

(注1)イスラエルとハマスの衝突の詳細についてはジェトロの特集を参照。

(注2)UFLPAの動向についてはジェトロの特集を参照。

(葛西泰介)

(米国、イスラエル、イラン、ロシア、ウクライナ、スーダン、中国、日本)

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