米USスチール、臨時株主総会で日本製鉄による買収計画を承認

(米国、日本)

ニューヨーク発

2024年04月15日

米国鉄鋼大手USスチールは、4月12日に臨時株主総会を開催し、日本製鉄による同社買収計画について、株主の賛成多数で承認されたPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と発表した。USスチールのデビッド・ブリッド社長兼最高経営責任者(CEO)は「株主からの圧倒的な支持は、日本製鉄との取引に説得力のある根拠を認識していることを明確に裏付けるものだ。これは取引完了に向けた重要なマイルストーンだ」と述べた。日本製鉄とUSスチールは2023年12月に買収計画の合意を発表していた(2023年12月19日記事参照)。

日本の岸田文雄首相は4月10日の日米首脳共同記者会見において、直前に行われた首脳会談(2024年4月11日記事参照)で買収計画に関する話し合いがあったのかなどと問われたのに対し、「当事者間で協議が進められていると理解している。協議が双方にとってプラスになる方向に進むことを望んでいる。日本は米国政府によって法律に基づいた適切な手続きが取られると考えている」と回答した上で、日本の対米投資額や創出雇用者数を基に日系企業の米国経済への貢献を強調した。米国のジョー・バイデン大統領は「私は米国の労働者に対する私のコミットメントを支持する。また、私は日米同盟に対するわれわれのコミットメントを支持する」と回答した。バイデン大統領は2024年3月に「USスチールは米国内で所有・運営される米国の鉄鋼企業であり続けることが重要だ」などとする声明を発表していた(2024年3月18日記事参照)。なお、ドナルド・トランプ前大統領は買収計画の反対を表明している。

首都ワシントンのシンクタンクが主催するセミナーなどのイベントでは、買収計画に肯定的な声が聞かれる。戦略国際問題研究所(CSIS)が2024年4月4日に開催した、日米同盟をテーマとしたセミナー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、外交問題評議会(CFR)特別研究員のマシュー・グッドマン氏は「この取引は米国に成長、新たな雇用、イノベーションをもたらす可能性が高い一方で、安全保障上のリスクを負わせるものではなく、両大統領候補の示す立場を残念に感じている」と述べている。

また、ハドソン研究所が4月5日に開催した、日米経済関係をテーマとしたイベント(2024年4月10日記事参照)で、インディアナ州のエリック・ホルコム知事(共和党)は買収計画への考えを問われたのに対し、「私は知事としてその計画を進めたい。そして成功してほしい。インディアナ州民にそこで働き続けてほしい。他の場所に移転、閉鎖、労働者が解雇されることは避けたい。だからこそ、(日本製鉄が)あの会社(USスチール)を救うために尽力してくれていることには感謝している」と述べた。USスチールの本社はペンシルベニア州にあるが、同社最大のゲーリー製鉄所はインディアナ州に所在する。

ハドソン研究所非常勤フェローのポール・スラシック氏も同イベントで、シェロッド・ブラウン上院議員(オハイオ州、民主党)が買収計画を批判する動き(注)について、「オハイオ州は外国直接投資で多くの恩恵を受けているにもかかわらず、政治では必ずしもその現実ではなく、(有権者の)認識が重要とされる」として、有権者心理を意識した動きだと説明した。

(注)ブラウン議員は4月1日付で、バイデン大統領に対して日本製鉄と中国鉄鋼業界の関係性の調査を求める書簡を送付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。一方で、同書簡が参照する民間調査結果の正確性を疑問視する声もある(通商専門誌「インサイドUSトレード」4月2日)。

(葛西泰介)

(米国、日本)

ビジネス短信 89a4317f5279f492