オーストリア政府、シェンゲン協定地域拡大拒否の姿勢が濃厚
(オーストリア、ブルガリア、ルーマニア、EU、EFTA)
ウィーン発
2023年11月28日
EU理事会(閣僚理事会)の内務相理事会が12月5日に開催されることを前に、ルーマニアとブルガリアのシェンゲン協定(注)参加に反対しているオーストリア政府の姿勢に国内外から注目が集まっている。
シェンゲン協定への参加は、同協定参加のEU加盟国による全会一致の賛成が必要となるが、EU理事会が2022年12月8日にクロアチア、ルーマニア、ブルガリアの協定参加について協議を実施した際、クロアチアのみ承認し、ルーマニアはオーストリアの、ブルガリアはオーストリアとオランダの反対によって否決された(2022年12月12日記事参照)。その後、欧州議会は2023年7月12日の本会議で、EU理事会に対し、2023年末までにルーマニアとブルガリアのシェンゲン協定参加の承認を求める拘束力のない決議を賛成多数(賛成526票、反対57票、棄権42票)で採択したが、オーストリア政府は拒否する姿勢を保持している。両国の協定参加の協議を契機に、オーストリア政府は、オーストリアへの難民申請数が多い原因となっている現在のEUの移民制度を抜本的に変更したいためだ。他方で、オーストリア政府に対する国内外からの方針転換への圧力も高まっている。
「ディ・プレッセ」紙(11月17日)によると、ルーマニアのエミール・フレゼアヌ駐オーストリア大使は、ルーマニアとブルガリアはオーストリアの外交政策の人質にされているようだと述べ、両国がオーストリアの懸念を和らげる対策を実施しているにもかかわらず、オーストリアの姿勢が変化していないことを批判した。「ブルームバーグ」(11月7日)によると、ルーマニアのイオン=マルチェル・チョラク首相はオーストリアの方針を「不当な拒否権」と呼び、拒否が続く場合、EU司法裁判所(CJEU)に提訴することも検討していると述べた。
ブルガリアのマリヤ・ガブリエル外相が11月17日にオーストリアを訪問した際、オーストリアのアレクサンダー・シャレンベルク欧州・外務相(国民党)は両国の友好的な関係をたたえつつ、「オーストリアのシェンゲン協定参加への拒否権行使は、ルーマニアとブルガリアに対する批判ではなく、シェンゲン協定自体が機能していないことに対する批判だ」と述べた。報道によると、これに対してガブリエル外相は「ブルガリアはシェンゲン協定参加後も国境をさらに効果的に警備する」と約束した(「ディ・プレッセ」紙11月17日)。
一方、ブルガリアのキリル・ペトコフ元首相(注2)は「デア・スタンダード」紙(10月23日)へのコメントで、オーストリア政府の方針を強く批判し、シェンゲン協定の拡大により難民流入が増加するというオーストリアの拒否理由は根拠のない政治的主張だとした。
オーストリア国内では、極右の自由党以外の野党や、連立与党の緑の党のほか、オーストリア連邦産業院(WKO)が両国のシェンゲン協定参加を歓迎している。両国で活動しているオーストリア企業は拒否権行使により影響を受けているからだ(注3)。しかし、オーストリアでは2024年に予定されている国民議会選挙を前に移民問題が再び着目され、同問題を代表的な争点とする自由党が世論調査で最も高い支持率を得ていることから、与党・国民党は難民受け入れに厳しい政策を維持している。このため、選挙までの間にオーストリア政府が態度を変えることは期待できないとみられている。
(注1)シェンゲン協定参加国は、ブルガリア、キプロス、アイルランド、ルーマニアを除くEU加盟国に、EFTA加盟国(アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン)を加えた27カ国。
(注2)現在はブルガリア国民議会欧州関係委員会委員長。
(注3)例えば、オーストリアのエネルギー大手OMVは、黒海での天然ガス産出開始に必要な法的整備を待っているが、ルーマニア政府はシェンゲン協定問題が解決するまでは法律の承認を延期すると報じられている(「プロフィール」紙10月24日、2023年6月29日記事参照)。
(エッカート・デアシュミット)
(オーストリア、ブルガリア、ルーマニア、EU、EFTA)
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