導入済みの制裁措置で、EU・CBAMのロシアへの影響は限定的か

(ロシア、EU)

調査部欧州課

2023年10月11日

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対して、ロシア政府はWTOルールに違反すると批判している。ロシア経済発展省のエカテリーナ・マヨロワ通商交渉局長は「CBAM導入の目的はEU域内の産業を国際的な競争から保護するためのもの。炭素資源の排出枠(クオータ)の設定と価格形成メカニズムを通じ、EUの基準を他国に押し付けようとしている」として、WTOルールに違反し、保護主義を助長するものだとの見方を示した(RBK 10月5日)。

CBAM導入のロシアへの影響については、欧州向けの炭素資源輸出が減少していることから、それほど大きくないとの見方がある。マヨロワ局長は経済発展省として状況を注視するとしつつ、対ロ経済制裁や、ロシアの貿易のアジアへのシフトにより、CBAMによるロシアの炭素資源輸出への影響は以前と比べ小さくなっていると述べ、ロシアの経済・産業への影響は比較的軽微との考えを示した。ロシア財務省付属科学調査金融研究所の試算によると、CBAM導入はロシアのGDPを0.17%押し下げる効果が想定されるという(コメルサント2023年7月13日)。

EUの対ロシア貿易統計をみると、ロシアからの関連製品輸入が減少していることが分かる。ジェトロがグローバル・トレード・アトラスを基にまとめたところ、CBAMの対象品目(注)のドル建て輸入額は、2022年上半期は前年同期比17.9%増を記録したが、下半期は同51.4%減、通年でも19.7%減となった。2023年に入って減少傾向は加速しており、2023年上半期は前年同期比56.5%減だった(添付資料表参照)。

製品別では、鉄鉱(HSコード2601)、鉄または非合金鋼の半製品(同7207)、鉄または非合金鋼のフラットロール製品(同7208)が大きく減少した。このうち、鉄または非合金鋼の半製品・フラットロール製品は、EUのロシア向け輸入禁止対象製品に該当する。ロシア政府が2022年に輸出数量の制限を延長しその後規制を緩和した窒素肥料(2022年12月7日記事参照)や肥料成分も、2023年上半期に大きく減少している。

(注)対象製品の詳細は、炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則の移行期間での報告義務に関する実施規則(2023年8月23日記事参照)のEU域外の事業者用ガイドラインPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で確認できる。

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(ロシア、EU)

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