豪ビール醸造会社とシドニー工科大学が連携、藻類利用で環境に優しいビールを製造販売

(オーストラリア)

シドニー発

2023年09月25日

オーストラリア・シドニー郊外のニュータウンにあるクラフトビール醸造会社ヤングヘンリーズブリューワリー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(以下、ヤングヘンリーズ)は、シドニー工科大学(UTS)と連携し、藻類(Microalgae:微細藻類)を使ってビールの製造過程で発生する二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)の排出量を削減した、環境に優しいビールを製造し販売している。ジェトロは8月23日、ヤングヘンリーズとUTSへインタビューを行った。

ビール酵母が麦汁を糖に分解する過程で、アルコールと炭酸ガス(CO2)が発生するが、この過程で藻類を利用しCO2を吸収させることで、CO2削減につながるという仕組みだ(同時に藻類は酸素も生み出す)。UTSの研究チームである理学部気候変動クラスター(C3)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、企業に対して藻類を利用した脱炭素化の技術ソリューションを提供している。ヤングヘンリーズが、UTSに相談を持ちかけたことで両者の連携が実現した(注1)。同社の創設者であるオスカー・マクマホン氏は「民間企業だけでこのような技術を開発し、活用することは資金的に難しいため、UTSとの連携や技術が必要不可欠だ」と述べた。また今後の展開について、「自社の取り組みで培った技術とノウハウを特許化しており、早ければ2024年から特許化したビジネスを軸にビール産業含む他の飲料業での活用を広めたい」と意気込みを示した。

UTS気候変動クラスターのピーター・ラルフ教授によると、藻類を利用した脱炭素化の技術は、製薬、バイオプラスチック、燃料、布類などの製造工程やサプライチェーンへの応用が考えられ、実際に他業界の企業ともすでにコンタクトをしているとのことだ。加えて、UTS(注2)は、ビール醸造のデジタル化に向けた実証を行っている。ジェトロが訪問したUTSのテックラボでは、工学・情報工学部のジョハン・デユース教授より、ビールの醸造過程においてデジタル技術や人工知能(AI)を使った生産の効率化や品質の向上などを実現するための取り組みや、実際に藻の培養を行うプラントなども紹介された。

写真 UTSテックラボのビール醸造実証施設(ジェトロ撮影)

UTSテックラボのビール醸造実証施設(ジェトロ撮影)

写真 UTSテックラボ実証施設で培養された藻類(ジェトロ撮影)

UTSテックラボ実証施設で培養された藻類(ジェトロ撮影)

ビールの副産物でメタン削減

両者はこれまで5年間、藻類プロジェクトで連携している(注3)が、2つ目の連携案件としてサプライチェーンの脱炭素化にも取り組む。ビール製造後に副産物として出てくる麦芽かすは、酪農家に引き渡され牛の飼料として利用されているが、その麦芽かすに藻類を加えることで、牛の消化を改善する効果があるという。藻類を添加した飼料で成育を保ちながら、牛のげっぷを減らすことでメタンガスの削減につなげようとする実証プロジェクトを実施(注4)している。

(注1)本プロジェクトは、連邦政府の産業イノベーション科学省による助成金を受けている。

(注2)AIやデジタル技術を活用したビール醸造の研究を行っているのは、UTS Techlab Nano-breweryという研究チーム。

(注3)ヤングヘンリーズとUTSの取り組みは、脱炭素分野における産学連携の実例として、連邦政府貿易投資促進庁が2023年8月に開催したオーストラリア脱炭素ビジネスサミット(2023年8月23日記事参照)でも紹介された。

(注4)オーストラリア食肉家畜生産者事業団(MLA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますと共同で実施している。

(青島春枝)

(オーストラリア)

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