2017年発行のドル建て国債を償還
(モンゴル)
北京発
2023年05月17日
モンゴル政府は5月1日、2017年10月に発行した8億ドルのゲレゲ債(注1)の残額3億6,870万ドルを完済した。ゲレゲ債の返済原資は2023年1月に発行したセンチュリー2債(注2)によって確保していた。
政府は過去3年間に16億ドルの債務借り換えを行い、債務不履行のリスクを回避してきた。また、2023年12月25日に償還期限を迎えるサムライ債(円建て国債)300億円の返済原資も既に確保しており、安定した信用格付け(注3)を維持している。一方、10月23日に償還期限を迎えるユーロ債の残額約4億1,000万ドル(注4)は、モンゴル開発銀行の債権回収(注5)やその他の財源から外貨準備を確保し、9月に支払う予定とボルド・ジャブフラン蔵相が会見で述べている(2022年12月20日記事参照)。
輸出好調で外貨準備増加、経常収支も黒字化
モンゴル銀行(中央銀行)の発表によると、モンゴルの2023年3月末時点の外貨準備は34億3,880万ドル。2022年第4四半期(10~12月)以降は増加に転じており、2023年第1四半期(1~3月)末には前年同期比でプラスに転じた(添付資料図参照)。背景には経常収支の黒字があり、特に好調な輸出による貿易黒字が下支えしている。
2023年第1四半期の国際収支統計は7,960万ドルの黒字となった。経常収支が2億3,752万ドルの黒字、資本移転など収支が2,230万ドルの黒字、金融収支が397万ドルの赤字(資金流入超)、誤差脱漏が1億8,417万ドルの赤字だった。経常収支の黒字には、貿易黒字の13億2,001万ドルがサービス収支の赤字8億641万ドルと第一次所得収支の赤字4億1,077万ドルを上回ったことが寄与した。第二次所得収支の黒字1億3,468万ドルも経常収支の黒字に貢献した(注6)。経常収支が黒字になるのは、2020年第4四半期以来9四半期ぶり。
(注1)2017年10月にチンギス債5億ドルと点心債(オフショア市場で発行される人民元建て債券)10億元(約196億円、1元=約19.6円)の借り換えを目的として、ゲレゲ債8億ドルを発行した。期間5.5年、年利5.625%。
(注2)2023年1月11日に6億5,000万ドルの国債(センチュリー2債)を発行した。当初予定では、世界的な利上げ環境の中で調達金利は年利11~12%とする予定だったが、138の投資家から総額400億ドルの応募があったため、年利8.65%に引き下げた。調達した資金でゲレゲ債5億3,000万ドルの残額と、ホラルダイ債6億ドル(2017年3月発行、7年物、年利8.75%、2024年3月償還予定)の借り換えを行う。
(注3)S&P、フィッチのモンゴルの信用格付けはB(2023年5月15日現在)。
(注4)ユーロ債は、2018年10月16日にエネルギーと農牧業分野の中長期開発プロジェクトの資金調達を目的として、モンゴル開発銀行が政府保証付きで5億ドル発行した。期間5年、年利7.25%。2023年1月23日に5,160万ドルの期限前償還を行い、残額は4億4,840万ドルとなった。債券価格が下落したタイミングで期限前に償還したことにより、1,100万ドルを節約し、さらに、満期時の利息420万ドルの節約にも成功した。その後も返済を行い、5月1日時点の残高は4億1,400万ドルとなっている。
(注5)サムライ債、ユーロ債で調達した資金はモンゴル開発銀行を通じて、国内の中長期開発プロジェクトに融資されたが、政治家関連企業への不正融資やずさんな審査を原因として、一部が不良債権化した問題が2022年1月以降明らかになり、債権回収を厳格化している。2022年3月から国会で関係者を呼び出して公聴会が行われ、責任追及は2023年5月時点でも続いている。
(注6)誤差脱漏の赤字は、モンゴル銀行が把握していない外貨の流出(現金での持ち出しなど)だ。サービス収支赤字の要因は、輸送(国際貨物、旅客運賃の受け取り・支払い)、旅行(外国人旅行者の国内消費とモンゴル人の外国旅行での消費の収支)、その他サービス(金融・証券の売買手数料、知的財産権使用料など)の支出が収入を上回ったもの。第一次所得収支の赤字の主な原因は、投資収益の還元(外国投資家が収益を本国に還流したもの)、利子・配当によるもの。第二次所得収支の黒字は、主に外国政府からの無償援助や外国にいるモンゴル人からの本国への仕送りが占めている。
(藤井一範)
(モンゴル)
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