ジェトロなど、水素視察ミッションを実施
(オランダ、日本)
アムステルダム発
2023年05月26日
ジェトロは5月8~10日、在日オランダ大使館、New Energy Coalition(注1)とともに、オランダ水素視察ミッション(注2)を実施。オランダの水素・アンモニアビジネス(注3)に関心を持つ日本企業(在欧日系企業を含む)32社の延べ43人などから構成したミッション団がアムステルダムとロッテルダムの水素関連施設・企業を訪問し、取り組みを聞くとともに、交流を行った。
各訪問先からの説明を踏まえると、オランダの水素関連プロジェクトは、(1)北海の洋上風力発電を利用したグリーン水素(注4)生産・貯蔵設備の港湾などでの建設、(2)オランダ国内や周辺国(ドイツ北部やベルギーの一部)に整備されている既存のパイプライン(従来は天然ガス用)の水素向けの再利用・新設、(3)欧州域外からのグリーンやブルーなど低炭素な水素の輸入から貯蔵・域内輸送のためのサプライチェーン構築の地域・国・世界レベルの3つに大別できる。
(1)については、グリーン水素の生産設備(電解槽)や貯蔵設備(タンク)の主要プロジェクトが進行している。(2)では、オランダのインフラの特徴として、複数のパイプラインが並走して国内に張り巡らされている。ロッテルダム港湾局によると、例えば、100%グリーン水素、100%グレー水素、天然ガスなどパイプによってガスの種類や「純度」を変えることで、需要家の個別ニーズに対応できるという。
(3)に関しては、欧州は2030年までに低炭素水素2,000万トンを域内に供給する目標を掲げるが、その半分の1,000万トンを域外から輸入する必要がある。ロッテルダム港湾局によると、同港は2050年までに2,000万トンの水素を取り扱う計画で、そのうちグリーン水素は1割程度を占める想定という。同港では、グリーンアンモニアを中心に、液化水素(LH2)、液体有機水素キャリア(LOHC)など、あらゆる水素キャリアの取り扱いの可能性を探りながら実証レベルも含めて各種プロジェクトが進められている。
アムステルダム港では、アンモニアは取り扱わず、他の水素キャリア(LH2やLOHC)に焦点を絞る(同港湾局担当者)。ロッテルダム港との差別化の観点、アムステルダム港が人口密集地帯に近接するため、アンモニアの毒性を考慮した安全面の観点などが背景にあるようだ。
なお、グリーン水素の取引については、港湾や輸送ネットワークなどのハード面だけでなく、ソフト面でもインフラ整備が進められる。グリーン水素の円滑な取引に向け、オランダは欧州で唯一、水素原産地認証(注5)が可能となるよう国内法を整備。同認証を構築したHyXchangeがその取り組みを紹介した。
参加した日本企業からは、「オランダの主要なグリーン水素関係者から、一度にまとめて話を聞くことができ、直接交流できたことがよかった」などの声が聞かれた。
(注1)北オランダを中心に水素プロジェクトを取りまとめるオランダの業界団体。
(注2)同ミッションイベントは、水素関連企業が出展する展示会「World Hydrogen 2023」(5月9~11日、ロッテルダム)の開催に合わせて実施した。
(注3)オランダの水素やアンモニアなどの主要プロジェクトについては、ジェトロの地域・分析レポート「再エネ、水素で大規模案件続出」(2023年4月17日付)を参照。
(注4)グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力を利用、水を電気分解して生成され、製造過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない。グレー水素は、化石燃料を原料とし、生成過程でCO2を放出。ブルー水素は、化石燃料を原料とするが、生産過程で発生するCO2を炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)などで有効利用または地中に貯留する。
(注5)同認証は現在、オランダ国内でのみ有効。
(古川祐、望月竜之介)
(オランダ、日本)
ビジネス短信 161ed2467a983d49