欧州委、グリーン・ディール産業計画の規制緩和策のネットゼロ産業法案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2023年03月20日
欧州委員会は3月16日、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の一環として、温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するネットゼロ産業規則案を発表した(プレスリリース)。この規則案は、ネットゼロ技術の生産拠点に関する規制枠組みを簡略化し、投資環境を改善することで、「戦略的ネットゼロ技術」について、2030年までにEU域内で年間に必要な分の40%を域内で生産することをベンチマーク(努力目標)とする。世界のネットゼロ産業の市場規模は2030年までに現状の3倍に拡大し、年間約6,000億ユーロに成長すると見込まれており、米国がインフレ削減法などによって同産業への投資呼び込みを加速させている中で、EUも同産業の成長を域内経済に取り込みたい考えだ。エネルギーの安全保障の観点から、エネルギー関連技術であるネットゼロ技術の域内生産を強化する狙いもある。規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。
規則案で戦略的ネットゼロ技術として指定を受けるのは、太陽光・熱発電、陸上・洋上風力発電、バッテリー・蓄電技術、ヒートポンプ・地熱発電、水素製造用の電解槽・燃料電池、持続可能なバイオガス・バイオメタン、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)、グリッド技術。EU加盟国間で指定の是非が割れていた小型モジュール炉などの原子力発電は、戦略的ネットゼロ技術の指定には含まれず、一段階下の区分の「ネットゼロ技術」に指定するにとどまった。
規則案はネットゼロ技術に関する行政手続きの軽減策として、各加盟国で単一窓口での行政手続き対応を可能にするワン・ストップ・ショップを導入。ネットゼロ技術の完成製品や部品、生産で主に使用される機械の生産拠点の許認可プロセスの審査期限について、年間製造能力に応じて12カ月以内あるいは18カ月以内に短縮する。また、加盟国は戦略的ネットゼロ技術の生産拠点に関して、所定の基準を満たす場合には「戦略的ネットゼロ事業」に認定することが求められ、この場合、優先すべき公共の利益にかなうとして、9カ月あるいは12カ月以内に許認可の判断をしなければならない。
さらに、規則案にはネットゼロ技術の調達先多角化に向けた規定も含まれる。ネットゼロ技術に関する公共調達の契約先の選定基準で「持続可能性およびレジリエンスへの貢献」という項目を導入。レジリエンスへの貢献については、ネットゼロ技術の域内供給の65%以上が「同一の供給源」から供給されている場合、原則として公共調達を実施する政府は、選定でこの点を15%から30%の割合で勘案しなければならない。消費者向けにネットゼロ技術の完成製品の購入奨励策を実施する場合も、この点を加味しなければならない。規定には域外国からの供給を対象にするとの具体的な文言はないものの、規則案の解説部分で太陽光パネルの域内供給の90%以上が中国に依存している点などを例示していることから、特定の域外国への供給依存に対する危機感があるとみられる。
このほか、規則案には、2030年までに域内におけるCO2の圧入能力を年間5,000万トンにするとの目標も設定しており、域内の石油・ガスの生産事業者は生産量に応じた目標への貢献が義務付けられる。
(吉沼啓介)
(EU)
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