欧州委、電力市場改革法案を発表、ガス価格との連動の緩和目指す

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月16日

欧州委員会は3月14日、複数の改正法案からなる電力市場改革案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。改革案は、価格変動の激しいガス価格との連動を緩和し、電力価格の安定化を図ることで、企業の競争力維持や消費者保護の強化に加えて、投資拡大による再生エネルギー整備の促進を目指すものだ。EU域内では2021年夏以降、エネルギー価格が高騰。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始以降はさらに高騰し、エネルギー危機に陥っていた。欧州委はエネルギー対策を立て続けに打ち出しており(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)、今回の改革案もその一環だ。

現在の電力市場の枠組みでは、電力価格はガス価格と実質的に連動する短期市場の卸売価格に大きく依存している。今回の法案は、短期市場でのこの価格決定メカニズムを変更するものではないが、ガスに比べて安価となった再エネの発電コストをより電力価格に反映させることができる長期市場の役割を拡大させることで、電力価格の低下と安定化を目指すものだ。

改革案はまず、電力購入契約(PPA)などの長期契約を推進する。企業は、再エネ電力や原子力など非ガス由来の低炭素電力を5年から10年単位などの長期で締結するPPAを活用することで、ガス価格に連動した電力価格より安価かつ長期間にわたって安定的に電力供給を受けることができる。一方で、長期のPPAの締結では、電力を購入する企業の信用リスクなどが課題となっており、活用が進んでいない。そこで、改革案は企業が市場ベースの保証を得られるようにするなど、必要な措置の実施を加盟国に求めることで、PPAの拡大を狙う。

また、改革案は、再エネなどの新規投資に公的資金を注入する場合、二重の差額決済契約(Contract for Difference、CfD)を活用することも加盟国に義務付ける。CfDは通常、再エネ電力の市場価格が一定の下限価格を下回った場合に、政府が再エネ事業者にその差額を補填するものだが、二重のCfDでは下限価格に加えて上限価格も設定し、市場価格が上限価格を上回った場合に、その差額を事業者が政府に支払う。支払いを受けた場合、政府は差額を企業を含め消費者に還元する。PPAやCfDの活用により、企業や消費者はエネルギー価格の急激な変動からの保護と、より安価な再エネ電力などの恩恵を受けられるようになると同時に、再エネ事業者は長期的な利益が予見可能になることから、より安定した環境で再エネ整備に投資することが可能になる。これにより、再エネ整備の加速を目指す。

さらに、加盟国に電力の需要抑制策や再エネ電力などの貯蔵を強化することを求めるほか、グリッド事業者による需要ピーク時の需要削減のインセンティブ策実施を認めることで、ガス価格の電力価格に与える影響が低下することが期待される。

改革案には消費者保護策も含まれる。消費者は、固定価格に基づく電力契約を結ぶ権利が認められるほか、価格変動型の契約も同時に締結することも認められる。これにより、消費者が安定した価格で、かつ必要に応じて夜間などに安い価格で電力供給を受けられるようにする。緊急時には、加盟国による一般家庭や中小企業向けの電力小売価格に対する規制も認める。

改革案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議することになるが、現地報道によると、加盟国間で採択までの時間的な見通しなどを巡って大きく対立していることから、審議の難航が予想される。

(吉沼啓介)

(EU)

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