シェンゲン協定へのルーマニアとブルガリアの参加否決、物流業界の期待かなわず
(ルーマニア、ブルガリア、EU)
ブカレスト発
2022年12月14日
EUの内務相理事会で12月8日、クロアチア、ルーマニア、ブルガリア3カ国のシェンゲン協定参加の可否を審議した結果、クロアチアを承認し、ルーマニアとブルガリアについては否決した(2022年12月12日記事参照)。EU加盟国の全会一致が参加条件だが、報道によると、オーストリアが2カ国加盟に反対、オランダはブルガリア加盟に反対した。
ルーマニア外務省はオーストリアに対して全く容認できないとする抗議声明を即日発表した。ルーマニアは改革を進めており(2022年11月25日記事参照)、10月と11月にそれぞれオーストリアを含むEUの専門調査団を受け入れ、ルーマニアの準備態勢は評価された。11月16日に首都ブカレストで開催されたオーストリアを含む内務相会合(ザルツブルク・フォーラム)では、2022年末までに3カ国の加盟を認めようとする共同宣言を採択した。そのわずか2日後、オーストリアは不法移民流入対策上の懸念を理由に反意を表明。これに対し、ルーマニアはバルカン半島西部の流入ルート上にはなく、ロシアのウクライナ侵攻後も不法移民のリスク管理を徹底していると反論した。オーストリアはルーマニアにとって第2の投資元国だが、今回のオーストリアの決定が欧州の団結に望ましからぬ結果をもたらしたとした。
さらに、ルーマニア外務省は8日、ルーマニア駐在のオーストリア大使を召喚し、ルーマニアが国内のオーストリア企業に圧力をかけているというオーストリア当局の非難に対しても、事実でないとして、断固たる抗議を表明した。
フロリン・スパタル経済相は12月8日、現地メディアに対し、ルーマニアがシェンゲン協定に参加できないことで自国経済が被る損害は年間100億ユーロに達するとし、その一部がEUからルーマニアにどう補填(ほてん)されるのか見ていくことが次の段階となるだろうと述べた。
物流会社ドゥマガスのミルチャ・ブラ最高経営責任者(CEO)によると、ルーマニアがシェンゲン協定に参加できないことで生じるコストは、国境越えのトラック1台につき毎日800~1,000ユーロに上るという。通関ではトラックが長蛇の列をなしており、通過にブルガリア国境で72時間、ハンガリー国境で12~24時間を要しているという。国際道路運送手帳(TIRカルネ、注)を利用するトラックがハンガリーからルーマニアに行く場合は、ドライバーのIDカードを提示するだけで通過できるのに対して、逆方向では10時間待たされるという。同氏は、これらの費用と時間のコストがルーマニアの輸出を停滞させ、貿易赤字の一因になっていると指摘した(「ジアルル・フィナンチアル」8月31日)。
(注)国際道路運送条約第6条に基づいて認定された団体が発給する通関手続き用と輸入税などの担保用書類。
(西澤成世)
(ルーマニア、ブルガリア、EU)
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