欧州委、ウクライナ情勢を受けて農業従事者や消費者向け緊急対応を発表

(EU、ウクライナ)

ブリュッセル発

2022年03月25日

欧州委員会は3月23日、ロシアによるウクライナ軍事侵攻後、食料品価格や生産コストの上昇で揺らぐ国際的な食の安全保障確保のための短・中期的な対応に関する政策文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。このうち短期的な措置として、欧州委は供給量の増加や農業従事者の所得支援を目的として、域内の農業従事者向けに以下の措置などを実施するとした。

  1. 共通農業政策(CAP)の危機対応準備金を活用して、ウクライナ情勢の影響を最も受けている部門の農業従事者への支援パッケージとして合計5億ユーロを拠出。
  2. CAPにおける農業従事者への直接支払い(所得支援)の前払いの増額。
  3. CAPに基づいて設けている休耕地での食料や飼料用の穀物生産を一時的に許可(2022年3月24日記事参照)。ただし、一定の環境基準の達成を受給要件とするグリーニング支払いを含めた農業従事者の直接支払いの受給額は維持。
  4. 安全性に問題がない場合に限り、各加盟国が飼料の輸入に係る要件を一時的かつ例外的に緩和することを許可。
  5. 豚肉部門への支援として、民間在庫補助(PSA)を導入し、市場価格の安定、底上げを図る。

こうした措置について、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAは同日付の声明で、休耕地の活用や輸入飼料に係る要件の一時的な緩和、農業従事者の所得支援となるCAPの危機対応準備金の活用といった措置を歓迎した。一方で、肥料関連についての短期的な措置がなかったとして失望感を示した。

欧州委によると、肥料は穀物生産の生産コストの18%(2017~2019年の平均値)を占めるが、ウクライナ情勢を受けてその価格が高騰している。特に、窒素肥料の生産に必要な天然ガスはロシアからの供給に大きく依存しており、天然ガスの卸売価格の高騰は肥料価格の高騰を招いている。実際、エネルギー価格の高騰を受けて、EUの一部の肥料生産事業者は一時的に生産を中止している。COPA-COGECAは、肥料が次の作付けシーズンに不足する恐れがあると指摘し、欧州委主導の「欧州食料安全保障危機対応メカニズム(EFSCM)」(注)を活用し、一刻も早く対応するよう要望した。

付加価値税引き下げの検討など消費者向け措置も発表

また、欧州委は一般消費者、特に低所得者層向けの措置として、(1)「最も貧しい人々への欧州援助基金(FEAD)」といったEU基金を活用した加盟国による消費者支援の実施、(2)各加盟国の裁量に基づく食料品などの付加価値税(VAT)の引き下げなどを提案した。欧州委によると、EUの食料品価格は2021年夏以降、上昇が続き、2022年2月は年率換算で5.6%の上昇率を記録した。小売り・卸売業界の団体ユーロ・コマースは3月23日付の声明で、欧州委や加盟国に対して、食品の流通を阻害する障壁をなくし、EU単一市場が適切に機能するよう確保することや、消費者の不必要な買いだめを防ぐため適切なメッセージの発信などを求めた。

(注)「新型コロナ危機」を教訓として、EUの食品サプライチェーンの危機対応能力向上を目指し、欧州委が調整役となり、EU加盟国と一部EU域外国の代表や食品サプライチェーンの関係者間の情報交換や協力強化を図る目的で、欧州委が2021年11月に設立を発表したメカニズム。

(滝澤祥子)

(EU、ウクライナ)

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