公共入札の透明性と事業実施の柔軟性が魅力-東京でセミナー開催、日本企業に進出呼び掛け-

(アルゼンチン、日本)

米州課

2018年03月16日

ジェトロは2月26日、アルゼンチンの「交通インフラ開発と官民パートナーシップ(PPP)の枠組み」に関するセミナーを東京で開催した。アルゼンチン側は、PPP事業の入札の透明性、ファイナンスや運営面の柔軟性などを紹介し、日本企業進出を呼び掛けた。マウリシオ・マクリ政権が進める規制や制度改革と国会議員選挙の勝利は、海外投資誘致の追い風となっているようだ。

PPPの制度や枠組みなどを解説

アルゼンチンは日本をアジアにおける重要国の1つとして位置付けている。2016年11月の安倍晋三首相の訪問と、2017年5月のマクリ大統領の訪日で両国関係の強化が確認された。こうした政治・政策面での後ろ盾もあり、2月26日、ジェトロと在日アルゼンチン大使館、アルゼンチン投資貿易促進庁(AAICI)、日本の海外鉄道技術協会(JARTS)と「交通インフラ開発と官民パートナーシップ(PPP)の枠組み」に関するセミナーを東京の本部で開催した。

セミナーではアルゼンチン運輸省のマヌエラ・ロペス・メネンデス公共事業担当副大臣が「ブエノスアイレス都市交通システムプロジェクト(RER)」の概要や事業計画を紹介した。また、ホセ・ルイス・モレア金融省PPP担当次官がPPPの制度や枠組み、ファイナンスの流れなどを解説し、「民間資金やノウハウを活用することでインフラ整備を計画的に進める準備があり、実施のためには、日本を含めた外国企業の公共調達への参加が不可欠」と強調した。続いて、AAICIのアレハンドロ・ヘイマン担当部長が日本企業への進出支援体制を紹介し、ジェトロ・ブエノスアイレス事務所の紀井寿雄所長がアルゼンチンの最新ビジネス情勢とビジネス機会について述べるとともに、「アルゼンチンにおける官民パートナーシップ(PPP)及びインフラ市場動向(運輸、エネルギー分野)に関する調査報告書」を紹介した。

政府は規制の緩和や撤廃を急ぐ

アルゼンチンでは2003~2015年のキルチネル/フェルナンデスの政権時に、大衆迎合的な政治や保護主義的政策が目立った。外貨や為替の制限、不透明な公共入札プロセスなどで、外国企業による対内直接投資が大きく減少し、同期間のインフラ投資額はGDPの2%程度にとどまった。実際、ジェトロが毎年実施している「中南米進出日系企業実態調査」では、2016年、2017年と連続して約40%の企業が「インフラの未整備」を投資環境面のリスクと指摘している。

中南米ではブラジル、メキシコをはじめとした周辺国の多くが既にPPPの枠組みを用いており、特にペルーは公共事業における政府支出を抑制するため積極的に導入して成果を上げている。アルゼンチン国内でも導入の必要性が検討され、2016年11月に官民連携法(PPP法、法律27328号)が、2017年2月には同法を規定する政令118号/2017が公布された(注)。インフラ分野のPPP案件としては、ブエノスアイレス大都市圏の交通システムや都市と地方をつなぐ道路回廊、港湾のロジスティクス、上下水道設備や浄水プラント、灌漑設備などの整備計画が発表された。

マクリ大統領は各種制度の規制緩和や撤廃を急ピッチで進めており、外国企業の参入障壁を下げる政策を取っている。アルゼンチンの公共調達案件は公共事業計画管理システム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで検索が可能。またPPP案件は金融庁傘下のPPP副庁のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでも公開され、入札ガイドラインなども同副庁サイトに掲載するなど、透明性を保っている。

実施予定のPPP案件は総額395億ドル

メネンデス副大臣はセミナーで、道路回廊は2019年までに120億ドル、貨物列車線路網は2031年までに104億ドル、ブエノスアイレス大都市圏交通システムは2025年までに95億ドル、港湾・航路は47億6,000万ドル、空港は2019年までに28億1,000万ドルと、総額394億7,000万ドルのPPP案件の実施を予定していると述べた。その中でも、地下鉄や駅、地下通路などを建設する大都市圏交通システムに関しては、2017年1月から「データルーム」と呼ばれるプロジェクト説明会が開催されており、日本、スペイン、フランス、ドイツ、カナダ、中国、韓国、米国、スイス、ロシアから計12社が参加するなど、高い関心が示されている。

PPP契約の特徴の1つはファイナンス面の柔軟性だ。プロジェクト受託者(国内外の民間企業)への融資は税収などを原資とする「PPPトラスト」と呼ばれる信託基金からの拠出金で賄われる。アルゼンチンのインフレ率は2016年40%以上、2017年は約25%と、下降基調であるものの依然として高率だ。これが外国企業の投資手控えの要因の1つとなっているが、拠出金の通貨はプロジェクト受託者が外貨を選択することも可能で、例えばドル建ての事業計画を立てやすく、中長期的なペソの切り下げにも対応できる。また、事業実施面での柔軟性は、プロジェクト参加企業に一定期間、建設したインフラ案件の運営権を与え、事業者が投資を回収しやすいスキームであることだ。

進出日系企業は政権の政策を再評価

アルゼンチンでは2年ごとに国会議員が改選(上院の3分の1、下院の半数)され、4年ごとに大統領選挙が実施される。2017年10月の国会議員選挙では与党連合「カンビエモス」が主要5州で勝利し、2019年の選挙で再選を目指すマクリ大統領の政権基盤は全国に拡大することとなった。これを受けて、政府は税制、年金、労働の各制度改革を矢継ぎ早に発表し、2017年12月には法案が相次いで可決された。継続的かつ安定的な経済成長が対内直接投資の拡大に不可欠としているマクリ政権の計画は順調のようだ。

他方、現地進出日系企業においては、2016~2017年上半期は政府の政策の動向を様子見する段階だった。しかし、上述した選挙結果を受けて政策の再評価や販売拠点の新規設立といった動きが出てきている。実際に紀井所長はセミナーで、中南米進出日系企業実態調査の「今後1~2年の事業展開の方向性」という設問に対して、「拡大」と回答した現地日系企業の割合は、2014年の21.4%から2017年には61.0%と拡大したと説明した。

(注)アルゼンチンでは2000年の政令1299号/2000と2005年の政令967号/2005でPPPに関する法令が公布されたものの、実際に適用されたことはなかった。

(志賀大祐)

(アルゼンチン、日本)

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