交渉第1段階の「十分な進展」について決議を求める-バルニエ首席交渉官、欧州議会へのブレグジット交渉進捗報告で-

(EU、英国)

ブリュッセル発

2017年12月14日

欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官は12月13日、欧州議会・本会議において、これまでの英国のEU離脱(ブレグジット)交渉(第1段階)についての進捗報告を行った。ここで、同首席交渉官は、英国政府との交渉に「十分な進展」を認め、自由貿易協定(FTA)を含めたEU・英国の将来関係についての協議(交渉第2段階)に移行する考えを示唆、12月15日の欧州理事会(EU首脳会議)に向けて欧州議会としての決議を求めた。ただし、12月8日のEU・英国首脳会談での合意を後退させることは「一切認めない」との厳しい交渉姿勢も示した。

トップ合意からの後戻りを許さない交渉姿勢示す

ブレグジット交渉のEU側の総責任者を務めるバルニエ首席交渉官は12月13日、欧州議会・本会議で同交渉の進捗報告を行い、これまでの英国政府との交渉に「十分な進展」を認め、FTAを含めたEU・英国の将来関係についての協議に移行することへの承認(欧州議会としての決議)を求めた。ただし同時に、欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長と英国のテレーザ・メイ首相が12月8日に合意した内容(2017年12月11日記事参照)について、後退することは一切認めない、との厳しい交渉姿勢も示した。

バルニエ首席交渉官は進捗報告の冒頭、「(交渉第2段階への移行後も)引き続き協議すべき項目は多く、困難だ」と強調した。ユンケル委員長とメイ首相の12月8日のトップ会談の合意内容は「共同報告書(Joint Report)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」としてまとめられており、欧州委はこの合意に基づいて今後の交渉を進めることを前提に、交渉第1段階の「十分な進展」を認めるとする。同首席交渉官は今回の進捗報告の中でも「われわれは共同報告書の撤回を一切認めない」と述べている。また、トップ会談の合意内容への真摯(しんし)な対応が、今後の交渉継続の前提条件とも指摘、これらの合意は法的拘束力のある離脱協定に盛り込まれるとした。この発言には、交渉第2段階において、英国政府がこれまでの合意を軌道修正しようとする可能性を牽制する狙いがあるものとみられる。

「生涯を通じて」「現在と同じ」権利が保障との認識

バルニエ首席交渉官は、EU側の優先課題の1つである「双方市民の権利保障」を例に挙げ、ブレグジット以前にEU・英国間の「人の自由移動」を前提に、生活の拠点を相互に移転した市民の権利は「ブレグジット以降も」「生涯を通じて」「現在と同じ」権利が保障されるとの認識を示した。しかし、これら「人の生活」(居住・婚姻・就労・就学など)に関わる議論は常に特殊性や曖昧性が伴い、不測の事例を含めて、英国政府がどこまで包括的に柔軟な対応を取るのか、こうした特殊な権利をどこまで認め得るのか、疑問も残る。

バルニエ首席交渉官は、離脱協定交渉に向けて共同報告書に盛り込まれた以下の原則を提示した。

(1)離脱協定はいかなる国内法にも優越する。

(2)離脱協定の保障事項は利害関係者の生涯を通じて直接適用される。

(3)EU・英国の双方で権利保障の解釈は曖昧性を認めない(統一すべき)。現行のEU司法裁判所の判例は離脱協定と一体を成すものとする。また、英国の国内裁判所は利害関係者の生涯を通じて、(これらEU側で確立された)判例に「十分な配慮」をする。

(4)英国政府は、英国で生活するEU市民を(権利保障に関連して)支援する独立機関を設置する。欧州委も同様の支援をEU域内の英国市民に行う。また、これら支援機関の在り方についての詳細も離脱協定に盛り込む。

このほか、バルニエ首席交渉官は共同報告書での合意事項として、現在、英国で生活するEU市民は「特別な地位」を無償で取得することになり、その権利保障を求める場合の行政手続きは客観的な基準に基づき、簡素でなければならないことを強調した。また、それら諸手続きに伴う行政手数料は「70ポンド(約1万円、1ポンド=約151円)程度」との目安を提示、英国市民と同等であるべきとの認識を示した。これらの詳細も離脱協定に盛り込むとしており、バルニエ首席交渉官は欧州議会に対して、同協定の批准手続きを通じて「検証してほしい」とも語った。

早ければ2018年1月末までに移行期間の交渉開始

今後の展開について、バルニエ首席交渉官は「交渉第1段階に『十分な進展』があったと欧州議会が決議採択し、12月15日の欧州理事会も承認すれば、離脱協定起草に正式に着手する」とした。また、同首席交渉官は12月12日のEU総務問題理事会で移行期間についても言及し、「(次の)EU首脳会議で今後の方針が固まれば、2018年1月末までに移行期間についての交渉を開始する」との考えを示している。

なお、欧州議会は、このバルニエ首席交渉官の進捗報告を踏まえて12月13日、「交渉第1段階に『十分な進展』」をめぐる決議についての審議に入った。欧州議会の大勢は決議を支持すると考えられるが、欧州議員の一部には慎重論もくすぶっていると指摘される。最終的な結論は12月14日午後に欧州議会のアントニオ・タヤーニ議長が発表する見通しだ。

(前田篤穂)

(EU、英国)

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