総選挙で保守党が過半数割れ、ハングパーラメントに-メイ政権はDUPとの協調で政権運営-

(英国)

ロンドン発

2017年06月12日

英国下院の総選挙が6月8日に行われた。与党・保守党が最大政党の地位を維持したものの、現有議席を減らして過半数獲得に失敗し、「ハングパーラメント(宙づり議会)」の状態に陥った。当初の大勝ムードから、自らの失策などにより今回の結果を招くことになったテレーザ・メイ首相への風当たりは強いが、メイ首相は辞任を否定し、北アイルランド民主統一党(DUP)と協調して政権を運営する考えを示した。

最大政党の保守党、13議席減らす

開票結果は表のとおりで、保守党は318議席を獲得し引き続き最大政党としての座を維持することになったものの、改選前議席を13議席減らす結果となった。反対に、最大野党の労働党は改選前議席を33議席上回る大幅増で262議席を獲得した。他の野党では、スコットランドで圧倒的な存在感を持っていたスコットランド国民党(SNP)が19議席減の35議席と大きく後退した。また、英国のEU離脱(ブレグジット)を党是として掲げる英国独立党(UKIP)は唯一保持していた議席を失った。この結果、いずれの政党も議会議席の過半数(326議席)を握ることのできないハングパーラメントの状態に突入することとなった。

表 主要政党の獲得議席数と増減(単位:議席、△はマイナス値)
政党 議席数 増減
保守党 318 △ 13
労働党 262 33
スコットランド国民党(SNP) 35 △ 19
自民党 12 3
北アイルランド民主統一党(DUP) 10 2
シン・フェイン党 7 3
ウェールズ党(プライド・カムリ) 4 1
緑の党 1 0
英国独立党(UKIP) 0 △ 1
その他 1 △ 3
合計 650

(出所)英国議会ウェブサイトを基に作成

投票率は68.7%と、2016年6月のEU離脱の是非を問う国民投票の投票率に迫り、若年層を含めた有権者の関心の高さをうかがわせた。

マニフェスト撤回などでメイ首相に批判

メイ首相が下院解散・総選挙実施の意向を表明した段階では、保守党と労働党の支持率は20ポイント以上の開きがあり、保守党の大勝が予想されていた(2017年4月19日記事参照)。しかし、高齢者の在宅介護費用など社会保障政策についてのマニフェストを事実上撤回したことに加え、テレビ番組主催の党首討論会に一度も姿を見せなかったことなどから、メイ首相への批判が高まり、労働党の猛追を許すことになった。

また、選挙キャンペーン期間中にマンチェスターとロンドンで相次ぎテロ事件が発生したが、これに関して、内相時代に警察官削減を行ったメイ首相への批判も高まっていた。

今回10議席獲得のDUPと協調

自らの失策も手伝って今回の結果を招いたことで、メイ首相の求心力低下は避けられない。労働党など野党各党はメイ首相の辞任を要求したが、メイ首相はこれを拒否し、今回10議席を獲得したDUPと協調して政権を運営する意欲を示した。今後の政権運営についてのエリザベス女王への謁見(えっけん)後に、報道陣の前に姿を現したメイ首相は、「最多議席を獲得した保守党のみが唯一政権を構築できる」として、保守党があくまでも最大政党の地位を維持したことを強調するとともに、単独過半数に届かないことから、DUPとの協調により「確実性を保証できるような」政権をつくり上げるとコメントした。

一方で、メイ首相への風当たりは強く、保守党内部をまとめ切れるのかは心もとない。既に首相の後継候補としてボリス・ジョンソン外相、アンバー・ラッド内相、デービッド・デービスEU離脱相、マイケル・ファロン国防相らの名前が取り沙汰されており、辞任に追い込まれる可能性も残っている。加えて、議会過半数の獲得を目指し、再度下院総選挙に及ぶ可能性についても指摘されるなど、政治状況の安定化には時間を要しそうだ。

EU離脱交渉方針の軌道修正を迫られるか

今回の総選挙は、議会で保守党が圧倒的な優位に立つことで、EUの単一市場からの離脱も辞さない「ハードブレグジット」路線を敷くメイ首相が、保守党内での基盤を固めることが目的とみられていた。

しかし、これに失敗したことによるEUとの交渉への影響は避けられない。メイ首相は、「EU離脱という国民の意思を実現する」とあらためて決意を述べ、6月下旬から本格化する交渉に予定どおり乗り出す考えを示したが、単一市場へのアクセスなど経済的インパクトを最小化する「ソフトブレグジット」を支持する親EU派の議員も多く抱える中で、党内の意思統一を図るのは困難な作業となる。

なお、スコットランドに目を向けると、スコットランドの英国からの独立の是非を問う住民投票実施を主張するSNPが大きく議席を失った。スコットランド政府首相も務めるSNPのニコラ・スタージョン党首は住民投票を早期に実施する意向だったが、今回の選挙結果により、その実施が遠のいたとする見方が大勢となっている。

(佐藤央樹)

(英国)

ビジネス短信 bb0d94227bbb85d1