英国のEU離脱で在留ハンガリー人の帰国に期待-外国企業の投資拡大も-

(ハンガリー、EU、英国)

ブダペスト発

2016年10月19日

 ハンガリー政府は、英国のEU離脱の影響は貿易やEU補助金の面で表面化してくると分析する。一方、英国在留ハンガリー人が帰国する可能性を3とおり想定し、いずれの場合も英国にとどまれば現状より待遇は悪くなるとみており、ハンガリー人の帰国や外国企業の投資の拡大に期待を寄せる。

EU補助金の減額により成長に影響も>

 英国のEU離脱のハンガリー経済への影響について同国政府の見解は、さまざまな機会で述べられている。今回は、国家経済省のホルヌング・アーグネシュ次官(金融担当)が913日にブダペスト市内で会計監査法人主催のセミナーで講演した概要を紹介する。

 

 同次官はマイナスの影響について、次のように解説した。2015年の貿易統計によると、英国は輸出先(金額ベース)で8位であり、ハンガリーの輸出全体の3.9%を占める。英国向け主要品目は電気電子機器、通信機器、自動車など工業製品であり、間接輸出も含めるとEU離脱の影響はさらに広がるだろう。また、懸念として英国のEU負担金拠出がなくなれば、EU補助金の減額につながり、今後のハンガリー経済の成長に影響を及ぼすだろう。ハンガリーでは、EU補助金を道路のインフラ整備など公共事業に活用しているものの、EU20142020年中期予算に基づくEUからの補助金支給が間に合わず、2016年第1四半期、第2四半期の建設部門の成長率(前年同期比)は、それぞれ27.5%減、23.6%減となった。EU補助金が削減されれば、影響は小さくない。さらに、国内では、英国企業が3,000社操業し73,000人が働く。雇用面の影響も予想されることから、今後も英国企業を支援し雇用の維持に努めることが重要だ。

 

<英語に堪能で優秀な人材が帰国>

 他方、見方を変えると、ハンガリーが英国のEU離脱を好機にできるポイントもある。(1)ハンガリーが英国および英国立地企業のEU拠点となる可能性、(2EU機関が英国からハンガリーへ移転する可能性、(3)英国に暮らす英語に堪能で優秀な人材である10万~15万人のハンガリー人(学生除く)が帰国する可能性。その背景としては、英国における待遇が現在よりも悪くなる3つのシナリオが考えられるためだ。

 

 具体的には、a.EU非加盟国であるノルウェーやアイスランド出身者と同じ扱いとなる可能性、b.労働許可の取得が求められ、現在受けている家族手当などの優遇措置が不適用となり、短期労働者は英国での健康保険が適用されなくなる可能性、c.確実性は低いながら、労働許可の取得、優遇措置の不適用に加え、社会保障費を英国とハンガリーの両国で納める必要性が発生し、しかも英国で働いた期間が年金支給期間として認められなくなる可能性だ。

 

 なお政府は、英国がEU離脱をした場合のGDP成長率への影響は限定的としている。近年の好調な輸出を背景に経済が持ち直してきており、2016年に入り主要格付け会社のフィッチ・レーティングスとスタンダード&プアーズ(SP)が相次いで、ソブリン債格付けを投資不適格級から投資適格級に引き上げる(2016年9月29日記事参照)など、外部評価の改善を楽観視の理由にしていると思われる。

 

<ハンガリーのEU離脱の可能性は否定>

 オルバーン首相がEUの難民政策を強く非難していることから、外国メディアにはハンガリーのEU離脱について言及する報道がみられる。しかし、英国の国民投票後の630日、ラーザール・ヤーノシュ首相府長官は定例記者会見でハンガリーでEU離脱の是非を問う国民投票をする可能性を問われた際、「オルバーン首相を含めた政府高官は、EU離脱でのデメリットが大きいことを認識しており、英国でのような離脱の是非を問う投票を行うことはない」と回答した。ハンガリーは25年前に体制転換し、2004年に念願のEU加盟を果たし、地域開発などでEU補助金を活用するなどメリットを享受してきた。政府だけでなく一般市民ともに、EU離脱によるデメリットを冷静に分析している。7月に民間調査会社サーザードベーグが実施した世論調査によると、回答者の76%がEUにとどまることを支持するという結果が出た。

 

(バラジ・ラウラ、三代憲)

(ハンガリー、EU、英国)

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